ノーマル短編集

□ノーマルSS
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 眠れない夜はふとんを抜け出て、光がかすかに透けているカーテンを静かに開ける。私の存在を消さねばならない秘密の儀式のように、ひっそりと。
 わずかに開けるだけで、月光がひとすじ差し込んでくる。その美しさに私は動きを止め、夢遊病者のようにフラフラとふとんに舞い戻った。ひざを抱えてじっとその光を見つめる。青白い、静かな光。思わず手を伸ばす。
 指先で少し触れた途端、私から伸びた影が光を奪う。光を浴びた細い指は、私の指とは思えないほど綺麗に感じた。それに続く闇までも。しばらく飽きもせず食い入るように見つめる。

 やがてまたフラフラと窓のそばに寄り、カーテンを開け放つ。目の前に大きな月。不自然なほどに大きく、近い。窓際のイスに腰かけ、その身を月光のもとに晒す。目を瞑り、全てをゆだねる。
 すうっと、身体の境界が溶け出していく感覚。自分が消えていく感覚に、思わず笑みが零れた。

「洋子」
「んあ?」

 目の前には幼なじみの、いつもの不機嫌そうな顔。また授業中に眠ってしまったらしい。

「寝ながら笑うのやめろよ。天に召されたのかと思ったじゃん」
「あー、うん」

 あいまいに返事して、にへらぁ、と笑っておく。

「心配させんな」
「はーい」

 頭をくしゃくしゃと撫でられて、この温もりがそばにあるうちは、どこにもいけないな、なんて思う。窓の外を見やると、青空に、薄ぼんやりとした月が浮かんでいた。

END

月の光に導かれたいお年頃。

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