不器用さも愛しい5のお題
□愛情表現
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――東魏・天平(てんぺい)元年/534年冬。
「昨夜第内に入られた韓氏(かんし)の御方が、殿が初めて求婚なさった方なのでしょう?」
今日も爾朱后(じしゅこう)に通うために束帯を纏おうとしていた高歓(こうかん)は、今は彼の正妃の身分にある婁昭君(ろうしょうくん)に一言告げられ、唖然とした。
確かに昨夜、彼は以前結婚を申し込んでいた韓氏の女・淑桜(しゅくおう)を妾として閨に召した。
淑桜を妻にと望んだが、彼女の母が彼を軽んじ、結婚を許さなかった。
その後、淑桜は他の男に嫁いだが寡婦になり、実家に出戻っていたところを、実力を付けた高歓が妾として迎えたのである。
皮のベルトを手渡そうとしていた昭君は、狼狽している夫の姿に肩を竦める。
「……知っていたのか?」
顔が強張り、脂汗まで出そうになっている夫の姿が、可笑しくてたまらない。
口元を長袖で押さえて、昭君はくすり、と笑った。
「晋州(しんしゅう)に居た頃に、噂で聞きました。
殿は精一杯の身形をして参られたのに、韓氏の御方の母君に断られてしまわれたのですね」
膝を突いて高歓のベルトを絞めつつ、昭君は何気なく言う。
「……妬いているのか?」
頭のうえから掛けられた言葉に、昭君は顔を上げる。
真剣な面持ちをした夫の顔が、彼女の内心を伺うように見下ろしていた。