clap log

□罪の名前
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大地が割れる音がした。
重力に従い障気の海へ墜ちていく。
実際に目を開けて、自身の目で見ているわけではないのに何故わかるのだろう。
辛うじて感じることができるのは激しく岩がぶつかり合うような音だけ。
そう考えてふと、思い当たる。

(そうだ。これは前の記憶じゃないか)

その時、身体が浮くような不思議な感覚がルークを襲った。
実際には墜ちていくスピードがティアの譜歌によって緩やかになっただけなのだが。
それを感じて、ようやくルークは目を開いた。

「良かったルーク身体は大丈夫か?」

ルークが目覚めたことにいち早く気付いたガイが声をかけた。
言葉自体はルークを心配するものだったのだが、その表情は困惑を含んでいることに気付き、ルークは改めて今の状況を理解した。

「兄上・・・アッシュは!?」

ルークが身を振るように飛び起きると同時に繋いでいた紐を切ったかのように一瞬だけ墜ちるスピードが早まった。

「あんまり騒ぐと障気の海と仲良しになってしまいますよ」

ジェイドの声でようやくティアがずっと歌っていてくれた事に気付く。
そして今がどれだけ危険な状態かということも。

「大丈夫だ、そこに居る」
「傷の治療は致しましたわ」

ガイとナタリアが応えてくれてルークはアッシュを視界に入れる事ができた。
少し距離があってよく見えないが、息をしていることは確かで、けれどその目は固く閉ざされていた。

「もうすぐ着地です」
「イオン様、ちゃんと掴まってて下さいね」

ゆっくりと、紫色の海に浮いた瓦礫の上に足がつくと同時にルークはアッシュの元へ走った。

「アッシュ!!」

横たわったアッシュを揺さぶるも反応は無く、ヴァンを止められなかったことを後悔した。
そしてそこでふと気付く。
今の自分に超振動を使った後のあの独特なダルさはない。
超振動を放ったのがルークでないとすれば、他にあの場で超振動を使えたのはアッシュのみで。
アッシュがこうして深い眠りにおちているのが何よりの証拠だった。

“前”と“今”ではルークとアッシュの立場が逆転している。
悪意が無かったにしろ“前”はルークがアクゼリュスを落とし、“今”はアッシュがアクゼリュスを落とした。
そしてヴァンのあの言葉。
『弟の方には後で仕事がある』
前は被験者(オリジナル)であるアッシュを必要としていたのだが、どういうわけか今のヴァンはルークを必要としていた。ルークの力、超振動を。

ヴァンがルークを欲しがる理由はどうあれ、今のアッシュが前のルークと同じような運命を辿らないとも言いきれない。

未来は自分の意思で変えていけるんだ、そう言った昔のルーク。
しかしアクゼリュスは崩落してしまった。
前と同じように。
既にたくさんの人が死んでしまったのだ。

(アッシュにあんな思いさせたくない・・・!!だってアッシュは、・・・アッシュは・・・)



『悪くない』

その言葉がルークの頭の中を過ろうとしたとき、全ての時が止まったように思えた。



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