第7章 犯罪の不成立及び刑の減免

(前 注)

第1 犯罪一般
1 犯罪の意義
 犯罪とは,刑罰を科すべき行為をいう(前田(総)2頁)。
 刑法解釈上の犯罪成立要件を吟味した上で一般的に定義すると,「犯罪とは,構成要件に該当する違法かつ有責の行為である」ということになる(大塚(総)86頁)。
2 犯罪の本質
A説 法益侵害説(いわゆる結果無価値論に結びつく)
 犯罪とは,権利の対象として国家的に保護されている財を侵害し,または危険にすることであるとする説。
B説 規範論(ドイツにおいて根強い考え方)
 犯罪とは,法益の侵害と言うよりも義務の違反として捉えるべきだとする説。
C説 折衷説(いわゆる二元的行為無価値論に結びつく)
 犯罪とは,基本的には,その侵害・脅威の態様も含めての法益に対する侵害・脅威であるが,同時に,一定の法的義務の違反として捉えなければならないという説。
(理由)
@犯罪の本質としての法益の侵害・脅威ということは,その侵害・脅威に方法や種類等も含めて理解しなければならない。
A法益の侵害・脅威との結びつき,法益の保護との結びつきという観点からのみでは,不真正不作為犯の成否,未遂犯の成否,正当防衛の正当化根拠等といった問題について,説明ができない。

3 犯罪の種類

第2 犯罪論の体系

第3 犯罪の主体
□法人の犯罪能力に関する判例
1)現行刑法は,自然意思を有する責任能力者のみ犯罪の主体と認めており,法人は犯罪能力を有しない(大判昭10年1月25日刑集14−1217)
□業務主処罰に関する判例
1)業務主処罰規定は,事業主が直接行為者たる従業員の選任・監督その他違反行為の防止に必要な注意を尽くさなかった過失を推定したものであり,事業主が注意を尽くしたことを証明しない限り,刑責を免れない(最大判昭32年11月27日刑集11−12−3113)。

第4 行為

□行為主義(行為刑法の原則)=人の好意以外のものを処罰の対象とすることは許されないとする原則。
□行為主義の原則の意味
1)外部に現れない思想,内心的意思を処罰しない。
2)およそ人の意思による支配と制御が不能な身体的態度(睡眠中の動作,単なる反射運動,絶対的強制を受けて行われた身体的動作等)を犯罪としない。
□行為の犯罪論上の位置づけ
(A)構成要件要素(通説)
(B)構成要件に先立つ独立した犯罪要件とする見解(曽根)
□行為概念をめぐる所説
(A)有意性不要説(前田)
 行為とは,人の身体の動静をいう。
 行為主義の原則の意味のうち,意思による支配と制御が不能な身体的態度を除外するという点を行為論の機能から除く見解である。この点は,有責性の要件として検討するというものである。
 井田良によれば,(B)因果的行為論の基本的立場を徹底する見解とされる(争点16頁)。
(B)因果的行為論←結果無価値論
 何らかの意思を基点とする因果的経過として行為を把握し,何らかの意思に基づく身体的動作又は不動作として行為を定義する見解である。
 結果無価値論を前提とする。不作為犯,忘却犯の説明に難があるとされ,「意思に基づく」ではなく,「意思支配の可能性」として要件を緩和する見解もある。
(C)目的的行為論←行為無価値論
 人間行為は,自然現象とは異なり,因果的過程を統制し自らの設定した目的の実現に向けて導く目的追求活動にほかならないとする。この立場に立つと,故意行為と過失行為は,その構造において異なり,違法評価の対象としても根本的に相違するとされる。
 過失犯,無作為犯の説明に難があると批判され,目的的行為論の論者自体,不作為については,作為とは存在構造を異にするとする。
(D)社会的行為論(多数説)←結果無価値論・行為無価値論
 行為とは,意思によって支配可能な社会的に意味のある態度であるとする見解である。
 不作為も,社会生活上期待された一定の行為をしないという限りで社会的実在性を持ち,「社会的に意味のある人の態度」という点で作為と異ならない,とされる。

第5 構成要件

□意義
 構成要件とは,一般に,一つの犯罪が成立するために必要な犯罪の成立要件(特別構成要件)という。
 具体的な行為が構成要件に該当するかは否かは,刑法各条の定めるところによる。
 しかし,刑法各条の定める犯罪類型と構成要件とは,必然的に一致するものとはいえない。なぜなら,刑法各条に定められている犯罪類型は,違法要素や責任要素のほか,処罰条件,刑罰阻却事由,あるいは,訴訟法的要件なども規定されているからである。
□構成要件の機能
1)〜3)が一般的に言われる機能である。5)訴訟法的機能は,犯罪論上考慮する必要はない。
1)罪刑法定主義機能=犯罪として処罰される行為と処罰されない行為とを明確にする機能
 ただし,罪刑法定主義の要請は,ただ構成要件によってのみ満たされるのではなく,構成要件固有の機能とはいえない(争点14頁)。
2)故意規制機能=故意を肯定するために行為者が認識する必要がある事実の範囲を示す機能
 故意を肯定するために何を認識すべきかは,故意論の問題であるから,構成要件は故意規制機能を有しない(争点14頁)。
3)犯罪個別化機能=ある犯罪を他の犯罪から区別する機能
 故意犯と過失犯の構成要件上の相違を肯定すると,違法性阻却事由の錯誤の問題に関し,いわゆるブーメラン現象の問題が生じ得妥当ではなく,否定すべきである(争点15頁)。
4)違法推定機能(堀内捷三「構成要件の概念」争点15頁)=構成要件に該当する行為は,同時に違法な行為でもあると推定する機能
 刑法理論体系の問題もあり,激しい対立がある。
5)訴訟法的機能
□構成要件と推定機能
(A)行為類型説=構成要件は単なる犯罪行為の類型にすぎないとする見解
 この見解によると,構成要件と違法性や責任との機能的な関連は否定される。構成要件は,客観的・記述的・価値中立的であり,主観的な価値的要素を含まない。
 この見解に対しては,犯罪論の体系は,単なる各犯罪成立要件の独立した集合体ではなく,相互の有機的な結合体であって,構成要件も違法性などとの関連で位置付けられるべきであるとの批判がなされる。
(B)違法類型説=構成要件は違法を推定する機能を有するという見解
構成要件は違法行為の類型であって,ある行為が構成要件に該当した場合,違法性の有無を改めて論ずる必要はなく,その推定を破る違法性阻却事由があるか否かを問題にすれば足りるとする。
(C)違法・責任類型説=構成要件は違法のみならず責任をも推定する機能を有するという見解
 違法論や責任論においては,違法性阻却事由,責任阻却事由の有無のみを検討すべきことになる。

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ