第二章 刑

(刑の種類)
第9条
死刑、懲役、禁錮、罰金、拘留及び科料を主刑とし、没収を付加刑とする。

(刑の軽重)
第10条
1項 主刑の軽重は、前条に規定する順序による。ただし、無期の禁錮と有期の懲役とでは禁錮を重い刑とし、有期の禁錮の長期が有期の懲役の長期の二倍を超えるときも、禁錮を重い刑とする。
2項 同種の刑は、長期の長いもの又は多額の多いものを重い刑とし、長期又は多額が同じであるときは、短期の長いもの又は寡額の多いものを重い刑とする。
3項 二個以上の死刑又は長期若しくは多額及び短期若しくは寡額が同じである同種の刑は、犯情によってその軽重を定める。

(死刑)
第11条
1項 死刑は、刑事施設内において、絞首して執行する。
2項 死刑の言渡しを受けた者は、その執行に至るまで刑事施設に拘置する。
□合憲性
 死刑は,憲法36条の「残虐な刑罰」に当たらず(最大判昭23年3月12日刑集2−3−191),憲法9条,13条,36条(最大判昭26年4月18日刑集5−5−923)及び25条(最判昭33年4月10日刑集12−5−839)に違反しない。
□絞首刑の合憲性
 絞首刑は,憲法36条に違反しない(最大判昭30年4月6日刑集9−4−663)。
 絞首の方法を定めた絞罪器械図式は,現在法律と同一の効力を持つものとして有効に存続しており,これによって執行することは憲法31条に違反しない(最大判昭36年7月19日刑集15−7−1106)。

(懲役)
第12条
1項 懲役は、無期及び有期とし、有期懲役は、一月以上二十年以下とする。
2項 懲役は、刑事施設に拘置して所定の作業を行わせる。
□無期懲役刑の合憲性
 無期懲役刑は,憲法13条,31条に違反せず(最決昭31年12月25日刑集10−12−1711),憲法36条の「残虐な刑罰」にも当たらない(最大判昭24年12月21日刑集3−12−2048)
(禁錮)
第13条
1項 禁錮は、無期及び有期とし、有期禁錮は、一月以上二十年以下とする。
2項 禁錮は、刑事施設に拘置する。
□合憲性
 禁錮刑は,憲法27条1項に違反しない(最大判昭33年9月10日刑集12−13−2897)。

(有期の懲役及び禁錮の加減の限度)
第14条
1項 死刑又は無期の懲役若しくは禁錮を減軽して有期の懲役又は禁錮とする場合においては、その長期を三十年とする。
2項 有期の懲役又は禁錮を加重する場合においては三十年にまで上げることができ、これを減軽する場合においては一月未満に下げることができる。

(罰金)
第15条
 罰金は、一万円以上とする。ただし、これを減軽する場合においては、一万円未満に下げることができる。

(拘留)
第16条
 拘留は、一日以上三十日未満とし、刑事施設に拘置する。

(科料)
第17条
 科料は、千円以上一万円未満とする。

(労役場留置)
第18条
1項 罰金を完納することができない者は、一日以上二年以下の期間、労役場に留置する。
2項 科料を完納することができない者は、一日以上三十日以下の期間、労役場に留置する。
3項 罰金を併科した場合又は罰金と科料とを併科した場合における留置の期間は、三年を超えることができない。科料を併科した場合における留置の期間は、六十日を超えることができない。
4項 罰金又は科料の言渡しをするときは、その言渡しとともに、罰金又は科料を完納することができない場合における留置の期間を定めて言い渡さなければならない。
5項 罰金については裁判が確定した後三十日以内、科料については裁判が確定した後十日以内は、本人の承諾がなければ留置の執行をすることができない。
6項 罰金又は科料の一部を納付した者についての留置の日数は、その残額を留置一日の割合に相当する金額で除して得た日数(その日数に一日未満の端数を生じるときは、これを一日とする。)とする。
□合憲性
 労役場留置は,憲法11条,13条,18条(最判昭33年5月6日刑集12−7−1351),14条に違反しない(最大判昭25年6月7日刑集4−6−956)。
□換価率
 留置日数1日に相応する金銭的換価率は,必ずしも自由な社会における勤労の報酬額と同率に決定されるべきものではない(最大判昭24年10月5日刑集3−10−1646)。
□罰金刑の言い渡し内容のうち,労役場留置に関し,5000円分を1日として言い渡したところ,5000円に満たない端数につき,たとえば,「(端数は1日に換算)」などと換算刑の言い渡しをしなかった場合は,執行が不能になるので,執行不能の刑罰を言い渡した点で,刑法18条4項の適用を誤り,その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから,破棄事由になる(名古屋高判平19年6月21日名古屋高検速報721)。
(没収)
第19条
1項 次に掲げる物は、没収することができる。
1号 犯罪行為を組成した物
2号 犯罪行為の用に供し、又は供しようとした物
3号 犯罪行為によって生じ、若しくはこれによって得た物又は犯罪行為の報酬として得た物
4号 前号に掲げる物の対価として得た物
2項 没収は、犯人以外の者に属しない物に限り、これをすることができる。ただし、犯人以外の者に属する物であっても、犯罪の後にその者が情を知って取得したものであるときは、これを没収することができる。

□没収の対象物
1 特定性が必要である。
 したがって,賭客の賭銭が開帳者の両替用及び釣り銭用の金員と混合して特定できなくなった場合には,没収できない(東京高判昭41年11月17日判タ207−154)。
2 同一性の有無
 目的物に変更を加えても,同一性を失わなければ没収できる(大判大6年3月2日刑録23−139)。
(1)同一性の認められるとき
1)賄賂として収受した反物で単衣を作った場合には,同一性が失われていないので,没収できる(大判大6年3月2日刑録23−139)。
2)供与を受けた金銭を両替しても,その性質を変更せず,没収できる(大判大7年3月27日刑録24−248)。
3)犯罪組成物件の刑事訴訟法122条による換価代金は被換価物そのものであって,没収できる(最決昭25年10月26日刑集4−1−2170)。
(2)同一性の認められないとき
1)賄賂として収受した反物を着物との表とした場合には,加工により別個の新しい衣類に変更したもので,没収できない(大判大6年6月28日刑録23−737)
3 一体性
1)犯行により得た親たぬきが犯行当時懐胎していた子だぬきを分娩したときは,子だぬきも没収できる(大判昭15年6月3日刑集19−337)。
4 主物・従物
1)杖刀を没収する場合には,その重物である鞘をも没収することができる(大判明44年4月18日刑録17−611)。
5 可分性・不可分性
1)主債務負担の部分が偽造である借用証書の真正な保証債務の部分は,独立した効用が無く共に没収できる(大判明45年6月27日刑録18−936)。
2)偽造文書の偽造部分と真正部分とが有形上分割し得なければ,すべて没収できるが,有形上分割可能で,真正部分が文書として効力を有するときは,真正部分を没収することができない(大判大3年11月19日刑録20−2169)。
□ 没収の効力
 没収の目的たる物件が押収されているときは,没収を言い渡した判決確定と同時に,没収の効力を生ずる(最判昭37年4月20日民集16−4−860)
 没収物の国庫帰属の効力は,没収物が押収されているか否か及び没収物の種類を問わず,没収の判決確定と同時に発生する(大阪高判昭51年7月9日判時841−145)。
 被告人に対する付加刑として言い渡された第三者所有物の没収の効果は第三者に及ぶから,所有物を没収されている第三者についても,告知,弁解,防御の機会を与えることが必要で,これなくして第三者の所有物を没収することは,適正な法律手続によらずに財産権を侵害する制裁を科するにほかならないので,憲法31条,29条に違反する(最大判昭37年11月28日刑集16−11−1593)。
□犯罪組成物件
 犯罪組成物件とは,法律上犯罪構成要素となるべき物件をいう(大判明44年2月16日刑録17−83)。
1 犯罪組成物件に該当するもの
1)偽造・変造文書交付罪における偽造・変造文書は,犯罪組成物件である(大判明43年11月22日刑録16−2110)。
2)賭博罪において賭した財物は,犯罪組成物件である(大判大3年4月21日刑録20−596)。
2 犯罪組成物件に該当しないもの
1)存在につき報告を怠った麻薬は,報告義務違反罪の犯罪組成物件ではない(最判昭28年10月13日刑集7−10−1910)。
□犯罪供用物件
1)犯罪供用物件は,単に結果から見て犯行に役立ったというだけでは十分でなく,犯人がこれを犯行の用に教する意思をもって直接犯行の用に供し又は供そうとしたことを必要とし,被告人が被害者を足蹴にしたときたまたま履いていた靴は犯罪供用物件とはならない(名古屋高判昭30年7月14日高刑8−6−805)。
2)犯罪供用物件とは,犯罪の構成要件たる行為自体に供した物の外,犯罪完成直後その結果を確保するための用に供した物を含み,窃取した鶏を運搬しやすいように処置するため,その首を切るために用いた切出し及びナイフは,犯罪供用物件にあたる(東京高判昭28年6月18日高刑集6−7−848)。
3)窃盗のための住居侵入に使用した鉄棒は,住居侵入の点が起訴されていなくても,窃盗の犯罪供用物件に当たる(最判昭25年9月14日刑集4−9−1648)。
□犯罪生成物件
1)通貨偽造罪における偽造通貨は犯罪生成物件である(大判明42年4月19日刑録15−458)。
2)不実記載のある公正証書原本は,公証人が権限に基づき正当に作成した物であるから,犯罪生成物件には当たらない(大判明42年1月22日刑録15−17)。
□犯罪取得物件
1)有償で譲り受けた盗品等は,犯罪取得物件である(最判昭23年11月18日刑集2−12−1597)。
2)金融の利益が賄賂である場合の借受金は,犯罪取得物件である(最決昭33年2月27日刑集12−2−342)。
□犯罪報酬物件
 売春業者に建物を提供した場合の家賃は犯罪報酬物件に当たる(最決昭40年5月20日判時414−47)。

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