第一編 総則

第一章 通則

(国内犯)
第1条
1項 この法律は、日本国内において罪を犯したすべての者に適用する。
2項 日本国外にある日本船舶又は日本航空機内において罪を犯した者についても、前項と同様とする。

□日本国等に関する裁判例
1)外国の使節の公館内も刑法の適用はある(大判大7年12月16日刑録24−1529)
2)船舶法1条3号の要件を満たす,日本に支店を有し,取締役全員が日本国民である株式会社所有の船舶は,本条2項の「日本船舶」に当たる(最決昭58年10月26日刑集37−8−1228)
□犯罪地の意義に関する裁判例
1)失火罪について,過失行為が日本国内で行われた以上,その結果が国外で発生しても,刑法の適用がある(大判明44年6月16日刑録17−1202)。
2)わいせつ画像データを記録,蔵置するインターネットサーバコンピュータがアメリカ国内にあるときでも,同データを含むホームページが日本語で構成され,国内プロバイダのホームページからこのホームページへ直接移動できるようリンクされているときは,日本国内から同データに容易にアクセスできるのであるから,アメリカ国内のコンピュータに日本国内から画像データを送信して記憶,蔵置させたときは,わいせつ図画公然陳列罪の国内犯が成立する(大阪地判平11年3月19日判タ1034−283)。
3)賄賂の供与が国外で実行されたとしても,その共謀や約束が国内で行われているときは,犯罪構成事実の一部が国内で実現されたものであり,賄賂の供与を含めた全体が国内犯に当たる(東京地判昭56年3月30日刑月13−3−299)。
4)日本国外で幇助行為(覚せい剤の調達等)をした者であっても,正犯が日本国内で実行行為(覚せい剤輸入等)をした場合には,本条1項の「日本国内において罪を犯した者」に当たる(最決平6年12月9日刑集48−8−576)。
5)偽造した証拠を写真電送する行為は外国で行われても,そのための謀議行為が日本船舶内で行われて場合には,国内犯である(仙台気仙沼支判平3年7月25日判タ789−275)。
6)領海外での日本船舶を使用した漁業取締規則違反も日本船舶内で罪を犯したといえる(大判昭4年6月17日刑集8−357)。
□「すべての者」に関する裁判例
1)外交使節等の治外法権は,その資格・身分関係に随伴するもので,その者にも刑法の適用はあり,その者がその資格等を喪失したときは,公訴時効が完成しない以上,訴追できる(大明大10年3月25日刑録27−187)。

(すべての者の国外犯)
第2条 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯したすべての者に適用する。
1号 削除
2号 第七十七条から第七十九条まで(内乱、予備及び陰謀、内乱等幇助)の罪
3号 第八十一条(外患誘致)、第八十二条(外患えん助)、第八十七条(未遂罪)及び第八十八条(予備及び陰謀)の罪
4号 第百四十八条(通貨偽造及び行使等)の罪及びその未遂罪
5号 第百五十四条(詔書偽造等)、第百五十五条(公文書偽造等)、第百五十七条(公正証書原本不実記載等)、第百五十八条(偽造公文書行使等)及び公務所又は公務員によって作られるべき電磁的記録に係る第百六十一条の二(電磁的記録不正作出及び供用)の罪
6号 第百六十二条(有価証券偽造等)及び第百六十三条(偽造有価証券行使等)の罪
7号 第百六十三条の二から第百六十三条の五まで(支払用カード電磁的記録不正作出等、不正電磁的記録カード所持、支払用カード電磁的記録不正作出準備、未遂罪)の罪
8号 第百六十四条から第百六十六条まで(御璽偽造及び不正使用等、公印偽造及び不正使用等、公記号偽造及び不正使用等)の罪並びに第百六十四条第二項、第百六十五条第二項及び第百六十六条第二項の罪の未遂罪

(国民の国外犯)
第3条  この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国民に適用する。
1号 第百八条(現住建造物等放火)及び第百九条第一項(非現住建造物等放火)の罪、これらの規定の例により処断すべき罪並びにこれらの罪の未遂罪
2号 第百十九条(現住建造物等浸害)の罪
3号 第百五十九条から第百六十一条まで(私文書偽造等、虚偽診断書等作成、偽造私文書等行使)及び前条第五号に規定する電磁的記録以外の電磁的記録に係る第百六十一条の二の罪
4号 第百六十七条(私印偽造及び不正使用等)の罪及び同条第二項の罪の未遂罪
5号 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)、第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)及び第百八十四条(重婚)の罪
6号 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
7号 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
8号 第二百十四条から第二百十六条まで(業務上堕胎及び同致死傷、不同意堕胎、不同意堕胎致死傷)の罪
9号 百十八条(保護責任者遺棄等)の罪及び同条の罪に係る第二百十九条(遺棄等致死傷)の罪
10号 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
11号 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
12号 第二百三十条(名誉毀損)の罪
13号 第二百三十五条から第二百三十六条まで(窃盗、不動産侵奪、強盗)、第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)及び第二百四十三条(未遂罪)の罪
14号 第二百四十六条から第二百五十条まで(詐欺、電子計算機使用詐欺、背任、準詐欺、恐喝、未遂罪)の罪
15号 第二百五十三条(業務上横領)の罪
16号 第二百五十六条第二項(盗品譲受け等)の罪
□国外犯処罰規定の例
1)北海道海面漁業調整規則36条(最判昭46年4月22日刑集25−3−451)
 北海道海面漁業調整法36条は,その目的とする水産資源の保護培養・維持及び漁業秩序確立のための漁業取締その他漁業調整を必要とする犯意の我が国領海及び公海のほかそれらと連接して一体をなす外国の領海における日本国民の漁業に適用があり,同規則55条は,その目的達成の必要上,我が国領海における同規則36条違反の行為のほか,公海及びこれらと連接して一体をなす外国の領海において日本国民がした同規則36条違反の行為をも処罰する旨を定めたものである。
2)漁業法66条1項,138条6号(現行7号)(最判昭46年4月22日刑集25−3−451)

(国民以外の者の国外犯)
第3条の2
 この法律は、日本国外において日本国民に対して次に掲げる罪を犯した日本国民以外の者に適用する。
1号 第百七十六条から第百七十九条まで(強制わいせつ、強姦、準強制わいせつ及び準強姦、集団強姦等、未遂罪)及び第百八十一条(強制わいせつ等致死傷)の罪
2号 第百九十九条(殺人)の罪及びその未遂罪
3号 第二百四条(傷害)及び第二百五条(傷害致死)の罪
4号 第二百二十条(逮捕及び監禁)及び第二百二十一条(逮捕等致死傷)の罪
5号 第二百二十四条から第二百二十八条まで(未成年者略取及び誘拐、営利目的等略取及び誘拐、身の代金目的略取等、所在国外移送目的略取及び誘拐、人身売買、被略取者等所在国外移送、被略取者引渡し等、未遂罪)の罪
6号 第二百三十六条(強盗)及び第二百三十八条から第二百四十一条まで(事後強盗、昏酔強盗、強盗致死傷、強盗強姦及び同致死)の罪並びにこれらの罪の未遂罪

(公務員の国外犯)
第4条
 この法律は、日本国外において次に掲げる罪を犯した日本国の公務員に適用する。
1号 第百一条(看守者等による逃走えん助)の罪及びその未遂罪
2号 第百五十六条(虚偽公文書作成等)の罪
3号 第百九十三条(公務員職権濫用)、第百九十五条第二項(特別公務員暴行陵虐)及び第百九十七条から第百九十七条の四まで(収賄、受託収賄及び事前収賄、第三者供賄、加重収賄及び事後収賄、あっせん収賄)の罪並びに第百九十五条第二項の罪に係る第百九十六条(特別公務員職権濫用等致死傷)の罪

(条約による国外犯)
第4条の2
 第2条から前条までに規定するもののほか、この法律は、日本国外において、第二編の罪であって条約により日本国外において犯したときであっても罰すべきものとされているものを犯したすべての者に適用する。

(外国判決の効力)
第5条
 外国において確定裁判を受けた者であっても、同一の行為について更に処罰することを妨げない。ただし、犯人が既に外国において言い渡された刑の全部又は一部の執行を受けたときは、刑の執行を減軽し、又は免除する。

□合憲性
 占領軍事裁判所の裁判権は,連合国最高司令官の権限に由来し,日本国の裁判権に基づくものではないから,既に同裁判所の裁判を経た事実について,重ねて日本の裁判所で処罰しても,憲法39条に違反しない(最大判昭28年7月22日刑集7−7−621)。
□外国における確定裁判の意義
@占領軍事裁判所の裁判(最大判昭28年7月22日刑集7−7−621)。
A奄美群島の占領中,琉球政府の裁判所による裁判については,本条の適用がある(最判昭30年10月18日刑集9−11−2263)
□刑の執行の減免
1)本条本文により,日本国裁判所が更に無期懲役刑を宣告する場合であっても,ただし書の適用がある(最大判昭30年6月1日刑集9−7−1103)。
2)本条ただし書による刑の執行の減免は,裁判所が判決で言い渡さなければならない(最判昭29年12月23日刑集8−13−2288)。

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