(故意)
第38条
1項  罪を犯す意思がない行為は、罰しない。ただし、法律に特別の規定がある場合は、この限りでない。
2項  重い罪に当たるべき行為をしたのに、行為の時にその重い罪に当たることとなる事実を知らなかった者は、その重い罪によって処断することはできない。
3項  法律を知らなかったとしても、そのことによって、罪を犯す意思がなかったとすることはできない。ただし、情状により、その刑を減軽することができる。

(心神喪失及び心神耗弱)
第39条
1項  心神喪失者の行為は、罰しない。
2項  心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

□刑法39条にいう「心神喪失」,「心神耗弱」の意義
大判昭和6年12月3日刑集10巻682頁
@心神喪失
 精神の障害により事物の理非善悪を弁識する能力がなく又はこの弁識に従って行動する能力がない状態
A心神耗弱
 精神の障害がいまだ弁識能力又は制御能力を欠如する程度に達していないが,その能力の著しく減退した状態
 「精神の障害」とは、一般には,精神病と平均からある程度以上偏りのある精神状態とのすべてを包括する上位概念で,輪郭は漠然としているなどといわれる(証拠法諸問題上632頁)。
 心神喪失,心神耗弱の概念は,医学的概念ではない。純然たる法律上の概念である。また,責任能力の有無の判断にあたっては,精神病等の精神の障害という生物学的要素とともに,事物の是非善悪を弁識する能力(是非弁別能力)とその弁識に従って行動する能力(行動制御能力)という心理学的要素を併せて考慮する,いわゆる混合的方法によるべきである(判例,通説)。
 責任能力の判断には,必ずしも専門家の鑑定による必要はなく,裁判所が他の証拠によって独自に判断してもよい。また,精神鑑定を命じた場合にも,その結果に拘束されない。
 なお、次のような裁判例もある
【裁判例】
@被告人の近親者に相当多数の精神異常者があるような場合には裁判官は被告人の精神状態については特に慎重な注意と考慮を払い,その良識により合理的な判断を下さなければならない【略。】被告人本人に精神の異常を疑わしめるものがあるならば,鑑定にんをして鑑定せしめた上これを参酌してその判断を下すべきである(最大判昭和23年11月17日刑集2巻12号1588頁)。
A精神異常の有無の問題は常識では容易に判定し得るものではないのである。それ故,事実承審官たるものは被告人の犯行当時における精神状態に関し疑いある場合には,よろしく専門家の認定を俟つの態度にでることは望むべきところである(最判昭25年1月13日刑集4巻1号12頁)。
 精神鑑定の要否の基準
@被告人に精神の障害が疑われる具体的事情が存在する場合
A被告人に死刑が宣告される事案の場合

第40条  削除
※かつては「いんあ者」の責任無能力の規定があった。

(責任年齢)
第41条  十四歳に満たない者の行為は、罰しない。

(自首等)
第42条
1項  罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自首したときは、その刑を減軽することができる。
2項  告訴がなければ公訴を提起することができない罪について、告訴をすることができる者に対して自己の犯罪事実を告げ、その措置にゆだねたときも、前項と同様とする。

□意義
 自首とは,@罪を犯した者(犯人)が,A捜査機関に発覚する前に,B捜査機関に対して,C自発的に,D自己の犯罪事実を申告し,E訴追を含む処分を求めること,をいう。
□罪を犯した者(自首の主体)
 第三者を介して行うことができるかどうかが問題となる。
 第三者を介して行うことも可能である(大判大13年10月14日刑集3−694,最判昭23年2月18日刑集2−2−104)。
 ただし,第三者が捜査機関に対し犯人の犯罪事実を申告したとしても,それが犯人の意思に基づくものでなければ,自首が成立することはない(京都地判昭47年3月29日判タ278−281。強盗致傷事件に及んだ息子の告白を聞いた母親が独自の発意に基づいて警察官に息子の犯行を申告した事案である。)。
 また,第三者を介した自首が成立するためには,「犯人がいつでも捜査機関の支配内に入る体勢にあることが必要である」(京都地判昭47年3月29日判タ278−281)。
□捜査機関に発覚する前(自首の時期)
 捜査機関がいかなる事実を覚知している必要があるかが問題となる。
 まず,捜査機関において,犯罪事実及び犯人を覚知していれば,犯人の所在を覚知していなくとも,捜査機関に発覚したものとして取り扱われる(最判昭24年5月24日刑集3−6−721)。
□申告の自発性 
1)警察官の職務質問
 被告人が派出所の前まで行ったところ,見張り勤務中の司法巡査から挙動不審をとがめられ,職務質問直後,進んで自己の犯罪事実を申告した場合には,当時,司法巡査には,未だ全くその犯罪事実を知らなかったことが窺われ,かつ被告人は自首するつもりで派出所に赴いたことが認められるから,被告人の行為は自首に当たるべきものとした裁判例がある(東京高判昭42年2月28日東時18−2−58)。
2)余罪取調べ
 捜査機関が犯人に対し,余罪の嫌疑を有して負いM,それを前提手押して行われた取調べの際に,自己の犯罪事実を自供したとしても,自首に当たらない。
 しかし,別の罪について,身柄を拘束されている犯人が,捜査機関に発覚していない余罪を自発的に供述する場合には,自首に当たる。

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