第一章 刑法の概念

□ 刑法の意義
 刑法とは,犯罪と刑罰とに関する法である。
 広義ないし実質的意義においては,犯罪の要件とともにその犯罪に対し科せられる法効果としての刑罰の内容を規定した国家的法規犯のすべてをいう。
 狭義ないし形式的意義においては,とくに「刑法」という名称で制定された法をいう。

□ 刑法の機能
 @規制的機能
 A秩序維持機能
 B自由保障機能

第二章 刑法理論

□ 違法性の本質
1)違法性の本質
 違法性とは,行為の悪さのことである。
 そこで,違法性とは,実定法規に違反することと捉える見解が生まれる(形式的違法論)。
 しかし,この見解では,ア)法秩序は何を許し,何を禁ずるのかが不明確である上,イ)実質的違法阻却も認められなくなり,不合理である。
 そこで,違法性を実定法規に違反すること以外の実質的根拠で説明することが妥当である(実質的違法論)。
 そして,刑法の目的がより多くの国民のより多くの利益の保護にあることからすれば,法益侵害及びその危険を生ぜしめる行為を違法と捉えるべきである(法益侵害説)。
 これに対し,法規範の中身であるところの社会倫理規範違反が違法の本質であるとする見解もある(法規範違反説)。しかし,ア)国民の思想信条の自由や行動の自由が一定程度制約されることを承認することになりかねないし,また,イ)価値観が流動的でかつ多様化している現代社会においては,何が倫理的に正しいかは不明確であることからすると,この見解は採り得ない。

2)違法評価の方法
(A)主観的違法論=行為の違法性は,義務違反的な意思活動にあり,行為者が一定の主観的能力意思を有するときのみ違法である。
 この見解は,法規範違反説を基礎として,法規範という国家の命令に対する違反があるときに違法とされるのであるから,名宛人がその命令を理解することのできないときは違法性を問うことはできないとする(命令説)。
(B)客観的違法論=行為の違法評価に際し,行為者の主観的能力を問題とせず,客観的に法に反する行為を違法とする立場である。したがって,違法判断にあたっては,判断資料及び判断基準双方が客観的であるべきだとする。
 この見解は,法益侵害説を基礎として,外的法益侵害の有無は,一般人に共通のものであるとする。
(C)(修正)客観的違法論=違法評価の基準は客観的でなくてはらならいが,対象は客観面・主観面の双方を含む。
 この見解は,法規範違反説を基礎とし,違法判断では主観的事情も重要であることから,判断資料には,客観的事情及び主観的事情の双方を含むとしながら,「評価規範・決定規範」の理論(決定規範には評価規範が先行し,評価規範は万人に共通な客観的なものであって,違法性は評価規範で決定され,有責性は決定規範で決定されるとする考え方)に基づき,違法性判断の基準は客観的なものとする。
 しかし,法規範違反説を前提とすると,違法については規範的非難も重要になるのであるから,違法判断においては,決定規範をも考慮することになるはずであって,「違法=評価規範の問題」という関係は必然的にはならないはずであるし,また,一般人には熊としか見えないものを人だと思って,殺した場合でも,殺人罪になりかねない。
(ア)刑法の目的は,客観的生活利益の保護にあり,思想や内心の悪辣性を処罰の対象とすべきではないのであるkら,違法とは,法益侵害であると考えるべきであり(法益侵害説),(イ)主観で,法益侵害の危険性は変わらないことや(ウ)いかに悪辣な者でも客観的に処罰に値する事情がなくては処罰すべきではなく,それを段階的に独立して判断する必要がある上,(エ)裁判官の恣意性を排除する必要があることを考えると,違法性判断に当たっては,判断の基準が客観的にされるべきであることはもちろんのこと,判断資料も客観的事情だけに限定するのが妥当である。

3)違法性の根拠
(A)結果無価値論=悪い結果の発生が違法性の根拠であるとする。←法益侵害説
(B)行為無価値論=悪い行為・悪い内心の存在が違法性の主要な根拠であるとする。←法規範違反説
(C)二元的行為無価値論=結果無価値を前提とし,更に行為無価値の有無を検討する立場である。

 
第三章 罪刑法定主義 

□法律主義に関する判例
1)条例で罰則を定めることは,憲法31条に反するものではない(最大判昭37年5月30日刑集16−5−577)。
2)児童福祉法34条1項6号の「児童に淫行させる行為」の禁止規定は,18歳未満の青少年との合意に基づく淫行をも条例で規制することを容認する趣旨のものではないと解するのが相当である(最大判昭60年10月23日刑集39−6−413)。
□事後法の禁止に関する判例
1)刑の執行猶予に関する規定は,改正後の法規を遡及的に適用することも許される(最判昭23年6月22日刑集2−7−694)。
2)公訴時効に関し,犯罪後,実体法に関し,法律の変更があった場合,その時効期間は,法律の規定により適用される実体法の法定刑を基準に定まる。公訴時効は,犯罪に対する刑の軽重に応じて定まるから,実体法を離れて決定することができないからである(最決昭42年5月29日刑集21−4−494)。
3)行為当時における最高裁の判例の示す法解釈に従えば無罪となるべき行為を処罰しても憲法39条に違反しない(最判平8年11月18日刑集50−10−745)。
 

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