光の勇者

□第一章 幼き日々
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§小さな二人と大きな世界§



 ある日、大きな森の近くに自然豊かな村があった。サーフェリオと呼ばれているその村は多くの亜人達が住んでいた。その村はずれの大きな森、ダグラスの森に近いところに家が2軒。そこには男の子の家族と女の子の家族が住んでいた。



「フェ・イ・ト。早く起きてよ〜、おじさん達行っちゃうよ。」
「まだ大丈夫だよ。」

女の子が、まだベッドで寝ている男の子を揺すりながら言った。男の子は眠たそうに応える。
 男の子の方は『フェイト』と言い、歳は13。金髪であどけなさがまだ残っているが、かなり端整な顔立ちをしており、利発そうな感じがする。女の子の方は『ソフィア』と言い、歳は11。銀髪で可愛らしい子供だが、しっかりした印象である。二人は今日、シランドという国へ行くことになっていた。二人は普段、ダグラスの森の周辺で遊んでいる。駆けっこやかくれんぼ、花を摘んだり、ままごとや家で絵本読みもしている。勉強は休みの日に、フェイトの母のリョウコとソフィアの母のキョウコから文字や計算、簡単な紋章術まで教わっている。もちろん村で同じ年頃の子供達と遊ぶこともある。しかし、村ではヒューマンの子供は彼らだけなので、二人は非常に仲が良く、深い絆で結ばれていた。二人はいつも一緒だった。

「ほ〜ら、早く早く。」
「わかったから、そんなに強く引っ張るなって。」   

フェイトがソフィアに急かされ、腕を引っ張られながら家から出て来る。そこには二人の両親が待っていた。

「フェイトも揃ったところだし、そろそろ行くか。」

と、フェイトの父であるロキシが言った。



 シランドへ行くにはイリスの野という草原を通って行く。比較的魔物が少なく、距離も遠くない。ソフィアは初めてシランドへ行くので、大分興奮しているようだ。シランドのことを聞かされてからは、いつも行きたいと言っていたからである。そして、今回二人の両親が用事でシランドへいくので、ソフィアが付いて行くと言い出したのである。ソフィアの両親はもちろん、フェイトの両親もソフィアに対してすごく甘い。なんとかしてソフィアの入国許可を得たのだ。フェイトは何回か行ったことがあるので、落ち着いており、ソフィアとシランドについて話していた。

「……あれ?ねぇ、フェイト。」
「ん?」
「なんか変な感じしない?」
「えっ……そういえば……」

その最中、二人は何かに呼ばれるような感じがした。その感じがする方へ振り向くと、遺跡らしきものがある。二人ともそれが気になって親に聞いてみると、

「あれは昔からある遺跡なんだけど、あまり調査が進んでないの。妄りに近づいちゃダメよ。」

とリョウコが注意した。それから二人はあの遺跡が気になって、シランドに着くまで黙ったままだった。
 シランドに着くとまずソフィアが驚いた。

「わぁ〜、すご〜い。きれ〜い。」

シランドの国は機能性よりも趣に重点をおいており、幻想的な雰囲気が醸し出されている。中でも水路や滝のダイナミックな流水が際立っており、目を引く。乙女チックなソフィアが感動しないわけがない。シランドは宗教国であり、科学もそれなりに発達してはいるが、やはり紋章術が盛んである。なので、紋章力の強さが地位の高さにも関係してくる。フェイトとフェイトの両親は光の一族の血を引いている。光の一族は紋章術を編み出した人達であり、また、この世界を創造した神の末裔とまで言われている。一般の人より強い紋章力と不思議な力を秘めている。そのため紋章を刻まなくても術を使い、昔から数々の奇跡を起こしてきたらしい。光の一族の人達も、シランドでは、それなりの権力を持っている。



 二人の両親はまず女王に会いに行って、それから研究室へ行くようだった。親達の目的はソフィアとソフィアの父であるクライブの市民権の獲得なのだ。ソフィアとクライブは正確にはヒューマンではない。二人は魔族と呼ばれる者達で、魔女と魔法使いである。魔族は魔物や悪魔、魔女、魔法使いの総称のことだ。魔物と悪魔はヒューマンとは別の生き物なのだが、魔女と魔法使いは、紋章を刻まなくても術が使えること以外はヒューマンと同じである。魔女と魔法使いは、もともとヒューマンから突然変異した種族で、人並外れた紋章力以外はヒューマンと変わりがないのだ。魔女と魔法使いは、平たく言えば紋章術師との違いはないし、光の一族にいたっては属性が違うだけで、生物学的に全く同じなのである。それなのに人々は光の一族を神聖視し、魔女達を怖れ、嫌う。今はそれほどひどくはないのだが、昔は魔女狩りなどの迫害を受けるほどだった。そんな中ロキシ、リョウコ、キョウコの三人は偏見を持っておらず、昔からクライブととても仲が良かった。シランドでは、魔族の入国は、特例を除いて認められていない。それでも、ソフィアとクライブが入国できるのはロキシ達のおかげである。二人の市民権が認められれば、シランドに住むことが出来るようになり、クライブは、フェイトの両親同様、シランドの正式な学者として働けるし、住民同様の権利が得られ、ソフィアも、シランドの子供達と同様、十五歳になれば得られる。両家は現在サーフェリオで暮らしている。サーフェリオではどんな種族でも受け入れているためである。またロキシ、リョウコ、クライブは学者として、キョウコは医者としてシランドで働いており、忙しく帰って来れないことも多い。両家は昔から仲が良く、家族ぐるみの付き合いをしているので、フェイトに寂しがり屋のソフィアを任せたり、家事の得意なソフィアにフェイトの身の回りを頼んだりするためでもある。しかし、ヒューマンが生活するにはサーフェリオは不便である。サーフェリオはほとんどが亜人で構成されているため、文化や生活がヒューマンのものとまるっきり違うのだ。やはりヒューマンはヒューマンの中で生活するのが一番いいのだ。
 親達の用事が終わるまで、フェイトとソフィアは城を探検することにした。



「ソフィア。どこに行きたい?」
「わたし、大聖堂に行きたい!」
「よし、それじゃあそこへ行ってみようか。」
「うん!」

二人は幅のある廊下を並んで歩く。両手を広げてもまだ余裕のある道を、元気な足音と落ち着いた足音が鳴り響く。大聖堂へ行く途中、一人のおじいさんに出会った。

「ほ〜う、これは驚いた。城に魔女がいるとは。しかも光の一族と一緒に。」

フェイトはソフィアを自分の後に下がらせた。城の中なので、怪しい人ではないのだろうが、こちらには魔女がいる。ソフィアは怯えていた。ソフィアを守るのはいつもフェイトの役目だった。

「おじいさんは誰ですか?」

フェイトは落ち着いて尋ねた。

「わしはアンサラーと言う者じゃ。安心するがよい。別にお主達に危害を加えん。しかし、まさか光の者と魔女が一緒のところを、生きている内にお目にかかれるとは……」

アンサラーの言い方は敵意がなく、むしろ感心したような感じだった。光の一族と魔族は長年敵対していて、戦争だってしたことがある。もちろん、ロキシ達のような例外もある。しかし、魔族の女性は幻術を使え、男性を誘惑したり、魅了したりして操ることが出来るのだ。それで、一昔前までは光の一族の掟で、光の一族の男性は、魔族の女性と一緒にいることを禁じられていたのだ。今では研究によって魔女と魔法使い、それに光の一族はヒューマンの一種であることが判明した。それにより掟は考え直され、撤廃されたが、人々の考えは変わらず、未だに、差別は残っているのである。そのため、十五年前に光の一族の男性が魔女と駆け落ちした話が残っているだけ。実は、公然と一緒にいるのはフェイトとソフィアが初めてなのだ。
 アンサラーはどうやら偏見のない人らしいと判断したフェイトは、警戒を解く。しかし、ソフィアはフェイトの腕にしがみついたままだった。それから二人は簡単に自己紹介をした後、

「わしは紋章術師じゃが、錬金術もやっておってのう。二人とも素質はありそうじゃ。特にそこの女の子。どうじゃ、わしの下で修業せぬか?」

突然尋ねられソフィアは戸惑う。アンサラーは本気のようだった。しかし、しばらく考え込み

「すみません、そのことは今すぐ決めることは出来ません。そのような大事なことは親に相談しなくては。私だけではちょっと……。それに私は魔女なのでいろいろ問題があるのでは?」
「おお、それもそうじゃな。いきなりすまんかった。だが、お主がその気になったのなら、いつでも来るがいい。わしなら大歓迎じゃよ。」

そう言ってアンサラーは残念そうに去っていった。二人は気を取り直して、再び大聖堂へ向かった。



 大聖堂には誰もいなかった。普段、大聖堂は礼拝のため一般開放されていたり、また、結婚式などの特別な式典などにも使われている。華美な装飾は神聖さを象徴するだけでなく、一種の昂揚感を与えてくれる。誰もいないこともあってか、静けさの中に神秘的な雰囲気を作り出していた。

「わぁ。すごーい。」

ソフィアはあちこち見て回り、はしゃいだ後、目を閉じて、祈るようなポーズをとっている。ソフィアは他の誰かといるときは、注意深く、以外にもしっかりしている。しかしフェイトといるときは、フェイトに対して、お姉さんぶったり、急に甘えたり、子供っぽくなって、表情や態度がコロコロ変わる。フェイトはそんな天真爛漫なソフィアがいとおしいく、守りたいと思っていた……
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