Novel

桜の咲く季節
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桜の咲く季節ころ……思い出して。


ほんの少しでいいの。
私の事を。
あなたを愛した……



―――私の事を……




桜の咲く季節
〜Cherry Blossom〜









ひらひら……ひらひら……




一枚の花びらが目の前を舞い落ちていくのを見つけセリスは足を止めた。
見上げると満開の桜がセリスを見下ろしていた。

(この世界にもこんな桜が残っていたのね)

セリスは一人微笑む。世界崩壊はこの世界に壊滅的なダメージを与えた。
しかしそんな中でもこうやって生き抜いたものもあるのだ。
(花を見てると落ち着くな……)
桜の木の根元近くにあった大きな石に腰をかけるともう一度顔を上げた。



ひらひら……ひらひら……



舞い降りる桜の花びらを無意識に掴まえようと手を伸ばす。
するっと手をすり抜けた
とても心落ち着く時間
空も穏やかな青空が広がり魔物の気配もない。



―――嵐の前の静けさ



とても穏やかな雰囲気にも関わらずそう思った。
明日ついにケフカを倒す為に瓦礫の塔へ向かう。
熾烈極まる戦いになる事は間違いない。
生きて帰ってこれないかもしれない。



――いいえ……私は生きて帰ってはこない




遠くに不気味に聳え立つ瓦礫の塔……
それを見つめると益々決意が固まる。
セリスが生まれ育った帝国。
小さい頃から英才教育を受けて気がつけば将軍という地位についていた。
それから思い出したくもない悪行――当時はそれが正義と思っていた――を働いた。
大勢の人を殺した。それを栄光だと自負した時もあった。
後に帝国の行為がガストラ皇帝とそれを取巻くケフカなどの幹部による自分本位な野望の為の殺戮だと気付いた頃には
恐ろしい程たくさんの罪を重ねていた。



―――だから………



きっと仲間達は強いからケフカを倒す事ができるだろう。
この世界は平和に包まれる。


セリスの生まれ育ったベクタ――そして今の瓦礫の塔。




――私は最後に帝国に戻る。そう最期に……




(これほどに自分の死に場所として相応しい場所が他にあるだろうか……)




例え世界を救う為に今まで尽くしてきたとしても過去自分の犯した罪が消える訳ではない。
セリスは未だ自分の過去を許せないでいた。

(ケフカと相打ち……でも悪くないな)

フッと儚く笑った。ここまで生きてこれたのもほんの偶然。
元々は帝国を裏切った時点でこの世から消えていたはずだ。
(私がここに今生きているのは………)



ザッ―――――



突然強い風が吹き上げ花吹雪が舞った。
周り一面桜の花びらが舞う。あまりに美しい光景にセリスは言葉を失う。



「セリス」



突然優しい声で呼び止められ振り返らずしてもその声の主が分かった。
セリスは視線を桜の木に向けたまま口を開いた。



「ねぇ、とっても綺麗でしょう?……桜……」
周りがピンク色に染まる。



「ね、……ロック……」



振り返って見上げるとそこに立っている
――私にここまで生きる力を与えてくれた張本人。




愛しい恋人―――ロック。




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