Novel

めぐる季節を越えて
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「結婚式の時ぐらいいいだろ。な?」



そうロックは楽しそうに声を弾ませながらセリスを自分へと引き寄せた。
セリスはビクッと体を震わせたが諦めたのかそのまま身を預ける。



「んもぉ、自分勝手なんだから。先が思いやられるわ」
「亭主関白かもな、俺って」
「ふふふ……そうはさせないわよ」



ロックの鼻を軽く指で弾いた。
二人の視線が重なり軽く笑いあう。



「で、どうしたの?こんな所に連れ出して」
「ん?……いや、二人で落ち着きたくてな。なんか騒々しかっただろ?」



ロックにそう言われ辺りをゆっくり見渡す。



目の前に広がるのは小さな町並みと開放的でどこまでも続くかと思わせる広々とした野原だった。
とても爽やかな風が流れる音と草が擦り合う音しか聞こえない。
今日がどういう日なのか思わず忘れてしまいそうな程の
静かで穏やかな空気が流れる。



「色々あったね……」



感慨深げに呟くように囁くようにセリスが言う。
それに呼応しロックは頷いた。



長いようで短かった。


手に入れたかのようですり抜けていった。


離れてしまったようで心は寄り添っていた。


そんな道のりを歩んできたような気がする。




「そうだな。でもこれからのほうが色々あるぞ。人生長いからな」
「そっか、そうね……」



穏やかな表情のセリスにロックは身を寄せる。
こうしているだけで安心する。



二人とも空を見上げ心の中と同じ曇りがない青一色の空をぼんやりと見つめる。
お互い出会ってから結婚に至るまでの過程について振り返りつつ―――




* * * * * * *





出会いはあまりにも唐突で、かつ衝撃的なものだった。



故郷とも言える帝国を裏切ったセリスとその帝国を憎み続け生きてきたロック。
両極端な環境で育った二人が出会ったのはセリスが処刑される前夜。
たまたま帝国内部の動きを足止めするためにサウスフィガロへ潜入した時、ロックはセリスの存在を知った。


両手を鎖に繋がれ激しい暴力に息も絶え絶えになるセリスを見て正直助けるのを迷った。
裏切ったとは言え激しく憎悪する帝国の将軍。


それなのに手を差し延べてしまった。
この世に対し絶望に揺らめくセリスの瞳を見てしまったから。
レイチェルを失った時の自分が重なり助けずにはいられなかった。


一緒に旅をするようになってセリスが驚く程普通の女の子だと言うことを知る。
帝国の将軍はケフカやガストラのように冷酷かつ残酷な者ばかりと思っていた分そのギャップにいつの間にか目が勝手に追うようになっていった。


時に強く、時に脆く、懸命に生きようとするセリスに熱い気持ちが込み上げ、
必要以上に”守ってあげたい”と思う気持ちに歯止めをかけても無駄だった。


セリスにしても出会った当初から献身的に自分を守ろうとするロックのその姿勢に
始めは戸惑っていたが次第に心奪われていく。
それが恋だなんて始めは気付かなかった。



あまりにも境遇の違う二人が運命的な出会いをして恋をする。



苦しいばかりの恋だった。



レイチェルの存在がお互いの心を苦しめた。


コーリンゲンで眠るレイチェルを思うとロックはセリスへの想いを素直に表現することを憚れた。
しかし自分を抑える事がどれ程辛いことか。
精神的不安定さが露呈し魔導研究所での許し難い出来事を引き起こしてしまった。








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