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クリスマスプレゼント第五幕
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リスマスプレゼント

第五幕





いよいよ、オペラ座クリスマス公演が始まった。
クリスマス公演は22・23・24日の3日間限定公演で
今やそのチケットはプレミアチケットで手に入れた人は
かなり幸運だと言われていた。

気になる公演の出来だが、
どの新聞も大成功の文字が躍っていた。
一先ずセリスあれほど努力した舞台が成功した事はとても嬉しい事だった。

もらったチケットは最終公演24日。
その後打ち上げに参加して一緒にセリスとクリスマスを過ごすという流れのはずだが
日々日々セリスのことで自信を失くすロックにとって
24日を迎える事が怖く、不安を募らせる一方だった。




◇……◇……◇……◇……◇





そしていよいよクリスマスイブ当日。



正装でなくては入場できないとあって
スーツ等持っていないロックはわざわざ友人から借りて着用する。
見慣れない気取ったスーツ姿に鏡の前で思わず苦笑してしまった。
そしてポケットの中に指輪を入れた。
少しポケットが嵩張るが、スーツに合う鞄を借りる事を忘れていたので苦肉の策だ。


帰り道、ジトールの街の真ん中にある大きなクリスマスツリーの下で、
ロックはセリスへプロポーズしようと決めていた。
そのため指輪は絶対に必要な物だ。


オペラ座へはジトールから車で一時間ほど南下したマランダまでの道中にある。
交通の便があまりいいとは言えない場所での公演だが
人気が高いせいか皆わざわざ足を運ぶみたいだ。
なんだか落ち着かずいても立ってもいられず予定時間よりも早めに宿を出て花束を購入しジトールを出発した。
オペラ前に来るとまだ開演まで1時間以上もあるというのに沢山の人達で溢れかえっていた。


チケットを渡し中へ入ると、オペラ座という存在に圧倒される。


以前来た時は作戦を成功させるという事ばかりが頭にあったので全く気にしていなかったが
今回初めてゆっくりと見渡すと細部の細部まで手抜きの無い造りの建物に息を飲んだ。
天井の細やかな絵、大きなシャンデリア、金色のバルコニーの手すり、大理石の廊下、きらびやかな椅子や緞帳、
歴史感じさせる重厚で豪華絢爛な雰囲気が漂ってる。

更に、見渡す限りドレスアップした人達ばかりで
そんな中見た目はスーツ姿で見劣りこそしてはいないが
その華やかさに気持ちが付いていかず一人置いていかれているような気持ちになる。


(こんなところでセリスは主役をやるのか……)


以前のマリア入れ替え作戦とは違う。
ここにいる大勢の客達は、人気のあるドラクゥやマリアだけでなく
セリスを見に来ているのだ。


「すいません、その花は出演者へのプレゼントですか?」


突然声をかけられ振り返るとオペラの関係者と思われるスーツ姿の男性だった。
手にしている花束が目に入って声をかけて来たようだ。


「あっ、あぁそうです。楽屋へ届けたいんですが……」
「失礼ですが、関係者様ですか?」
「いや、えっと、セリスの知り合いなんですが……」
「そうですか、申し訳ありませんが楽屋へは関係者以外立ち入り禁止ですので」


やんわりだがきっぱりと断られどうしようかと花束を見て一瞬往生したが
関係者が笑顔で丁寧に言葉を繋げた。


「花束はこちらのほうでお預かりさせていただきます。勿論必ずセリスさんには
お渡しいたしますので」


その申し出に直接自分の手で渡したいと思うロックは戸惑ったが
きっと強く会いたいと懇願したところで断られる事は目に見えていた。
また、周りのあまりにも神々しい雰囲気に飲み込まれてしまい
大人しく素直にその男性に手渡した。
関係者の人が会釈をし、花束を持ったまま歩いて向かった先は
沢山のプレゼントが置かれている一角だった。


自分が持ってきた花束よりも数倍も大きいものが並ぶ中に置かれるとあまりにも見劣りしてしまい、
こんな小さな花束を持ってきた自分が恥ずかしくなってくる。
近くに寄って花束やプレゼントなどを見ていると
沢山セリスへのあて先のものがあって驚く。
こんなことなら花束なんて持ってくるんじゃなかったと後悔の念が襲う。
他のものと比べられたらあまりにも惨めな気持ちになってくる。
セリスもきっと大きな花束のほうが華やかで喜ぶに決まっている。
しかし今更返せなどと言える訳も無く一つ溜息を落としその場を離れた。



気軽会えなくなるほど今の自分とセリスとでは距離が離れてしまったのか。



立場も――そして心も。




その後席を探しホール内を彷徨った。
チケットを封筒から出してよく席を確認すると、なんと一列目のど真ん中だった。
驚いたまま席までやってくると一列目と言えどオーケストラを挟んでのものなので
思ったよりもステージまでの距離が近くなかった。
まだ早いが席に座ると目の前に広がる幕が下ろされた舞台へと目をやった。


今頃舞台の裏で緊張しながらも本番を待っているのだろう。
勇気付けてやりたかった。
というか、自分が会いたいだけなのかもしれないが。


始まるまでの時間、緊張した面持ちで待っていたのだった。





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