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HEART
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HEART


happy birthday LOCK



「さぁ、これでよし――と!」
気合を入れた声を上げながらエプロンを身に纏い長い髪を束ね、
キッチンの前で気を引き締める。

セリスの目の前には卵やら生クリームやら砂糖やら
沢山のケーキを作る材料が並んでいた。


「にしても、ホント無理言ってごめんなさい。マリアさん」
「なぁ〜に言ってんの。私もケーキ作り久しぶりだから楽しみなのよ」


そう言いながら、なるほど――本当にワクワクした表情でマリアは微笑んだ。

ここはオペラ座看板女優マリアの家。
なぜこんなところにいるかと言うと
明日のロックの誕生日の為に手作りケーキを作る為
本日のドラクゥとの個人レッスンを取りやめ
マリア指導のもとケーキ教室が行なわれる事になった。

ロックへのささやかなプレゼントは既に購入済だったが
それ以外に手作りのものがあげたかった。
が、ケーキ作りなど勿論今まで一度もしたことがない。
完全に未知なる世界である。
諦めかけたところ、その話を聞いたマリアが人肌脱いだということである。


「にしても、きっとロックさん喜ぶでしょうね〜」


冷やかしを込めた瞳でセリスを見つめたので大いに照れた。


「でも、マリアさんがいてよかった……。私一人じゃ何もできなかった……」
「ふふふ……色々迷惑かけちゃったからね、セリスには。これぐらい当然」
「さてさて、あまり時間もないですし始めましょうか」
「そうね、まずはセリス薄力粉をふるっておいて。3回はしてね。
私はちょっとハンドミキサーを探してくるわ」



そういうとマリアはキッチンを出て行った。
突然ぽつんと一人にされたセリスは、
目の前に並ぶ沢山の材料たちをおもむろに手にしてみる。


(薄力粉って――どれ?)



しばらくして戻ってきたマリアはセリスがきちんと薄力粉をふるっていることに
満足した表情で軽く何度か頷いた。
手際も良さそうだしすんなりケーキ作れそうと安堵の溜息を吐いた。


が、そんなに甘くはなかった。


ここからが地獄のケーキ作りの始まりだった。





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