Novel

クリスマスプレゼント第三幕
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リスマスプレゼント

第三幕





セリスのオペラの稽古が始まった。


団長の家に隣接された建物がオペラ座の練習場になっており、
そこでセリスは一日中過ごす。

以前のマリア身代わり事件を知っている者ならセリスの底知れぬ実力がわかっていたが
そうでない者はマリアとただ容姿が似ているというだけで主役に選ばれたセリスが疎ましかった。
そんな人達の視線を肌で感じながら
納得させれるような演技をしなければならずセリスは疲労困憊だ。


歌に関しては、
若い頃から帝国で人前で大声で話すことが多かったおかげか、
生まれ持った才能のおかげか、
発声が素晴らしく、透き通った存在感の有る歌声で他のメンバー達を唸らせた。

が、演技に関しては問題が多かった。
恋する女性役の為、大勢の人達の前でそう言った演技をすることに対して羞恥心が拭い取れない。
また踊りも立ち回りにも慣れず、練習量の不足が露呈されていた。

迷惑かけている自分自身が悔しく、
足手まといになっている現状を何とかしようとセリスは日夜休む暇もなく練習に明け暮れた。




◇……◇……◇……◇……◇





「はぁ……」


誰もいないレッスン室で零す情けない溜息が部屋中に響き渡る。
一人ダンスをしていたセリスは疲れを覚え、その場で座り込んだ。

練習終了後も一人残ってレッスンのおさらいをするのがここのところの1日の流れだった。
努力家かつ負けず嫌いなセリスは中途半端なことは嫌いな性格の為
寝る間を惜しんで徹底的に自分を追い込んで練習をしていた。

しかし納得のできた演技をすることが出来ず焦燥感が募っていく。
気負いだけが空回りしていて全てが上手くいかず溜息ばかり零れる日々だった。
舞台監督であるジンも頭を捻らせていた。


(才能ないな……やっぱり。でも今更投げ出せないし)


その時静かなレッスン室に扉が開く音が響き顔を上げると
ドラクゥが練習着のまま部屋へ入って来た。
セリスは慌てて立ち上がり、頭を下げた。


「大分煮詰まってるみたいだね」
「お疲れ様です!どうされたんですか?」
「いや……練習付き合おうかと」
「えっ?!」


驚きのセリスの表情を見てドラクゥは面白そうに笑った。


「そんなに驚かなくてもいいじゃないか。不服?」
「ち……違いますよ!わざわざ悪いなぁ……って」
「まぁ、困ったときはお互い様だろ?俺に出来る事なら何でもするよ。
嫌がるセリスの出演を勧めたのは俺でもあるし。
何する?歌?ダンス?演技?」
「う〜ん……演技ですかね……」


再び溜息を吐きながら鏡に写る情けない表情の自分の姿を見つめる。
ドラクゥは置きっぱなしの簡易椅子をセリスの側へ寄せると
反対側から椅子に座り背もたれ部分に顔を乗せた。


「歌とダンスは……勿論不安もあるんですけど練習を重ねたらなんとかなると思うんです。
でも演技だけは……どうしても上手くなる兆しがなくて」
「う〜ん……なんかいまいち役に成りきれてないんだよなぁ……」
「……それに、皆のいる前でその……恋する演技なんて恥ずかしいじゃないですか……。
大体恋する演技ってどんなのかわかんないし。
そんなこと考えちゃだめとか色々な思いが頭の中を錯綜しちゃって」
「色々と考え過ぎだよ。もっと役に成り切る事が必要だね。
セリスは俺に恋する役だろ?だったら俺に恋しなきゃ」
「えっ……」






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