ハイキュー!!
□第五話
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騒がしい友人の一言で私の平穏な生活は終わりを告げるのであった。
〜Love me tender〜
「なまえって・・月島君に言い寄られてるってホント?」
「は?」
教室に入り、クラスメイトと挨拶を交わしながら自分の席に鞄を下した直後、
待ってましたとばかりにやってきた友人の一言は、クラス中の女子の目線を欲しいままにしていた。
「え、何それ。」
滝に打たれたようにだらだらと冷や汗が出る。
サーっと血の気が引くような感覚が襲う。
「昨日、月島君が3年の教室までなまえのこと探しに来て、あんたに片想い中って言ってたらしいよ。」
にっこりと面白いおもちゃを見つけたようにはしゃぐ友人を前にして、目の前が真っ暗になった。
あの野郎。
「噂をすれば、だ。」
「え!?」
「なまえー!」
名を呼ばれ、呼ばれた方に目をやると、噂を流した張本人が教室のドアにもたれていた。
名を呼んだクラスメイトに軽く会釈して教室内に入ってくる。
「これ、昨日言ってたCD。」
「あ。ありがと。」
「何、随分大人しいじゃん。」
自分の席でいすに座っている私は、必然的に蛍を見上げる形になる。
蛍の顔と、友人の顔を見比べて、胃がムカムカと悲鳴を上げ始めていることに気付かないふりをしながら、CDを受け取った。
「月島君ってなまえのこと好きなの?」
「んなっ!?ちーちゃん!!何言ってんの!!!」
友人のちーちゃんが蛍にストレートに問題を聞く。
ちーちゃんの口を塞ごうと慌てふためいていると、
「ええ。まぁ。この通り、僕の片想いですけど。」
といった。
驚いて振り返ると、蛍は、
「覚悟してて下さいね、みょうじ先輩。」
といって笑った。
クラス中の女子のキャーキャーという奇声をバックに、悪魔のような微笑みを浮かべる蛍に絶句した。
利用するって、こういうことか。
学校中の女子の注目を集める、1年でもカッコ良くて有名なあの月島蛍が、年上の好きな人にアプローチ中とあれば、女子へのけん制になる。
普通の女の子であれば好きな人がいるならばと告白自体をあきらめるだろうし、
もし告白されたとしても、【好きな人がいるから】という大義名分で乗り切れる。
しかも、3年の教室で堂々と言ってのけたのだ。
噂話は尾ひれをいっぱいつけて今日中に学校中を駆け巡るのであろう。
つまり、私は、全校生徒公認の“月島蛍の想い人”に祭り上げられてしまったのだ。
グッバイ、私の平穏な日々。
あっけにとられる私をよそに、外野のボルテージは爆発的上昇中。
・・・無理!!!!!
私はおもむろに立ち上がり、教室から飛び出した。
「おっと、残念。逃げちゃったか〜。
前途多難だね、月島君。」
教室の外へ逃げていったなまえを誰も追うことはなかった。
むしろ、素早すぎて誰も身動きがとれなかった。
見送ったなまえの横顔は苦しそうに歪ませられていた。
でも、こうでもしなきゃ、僕の気持ちに気付くことも、目を向けることもしないだろう。
今は利用されていると思われていてもいい。
種はまかないと芽は出ないのだ。
「まぁ、覚悟の上なので。」
なまえを欠いた2年間に比べたら、目の前にいるだけでチャンスはゴロゴロところがっているようなものだ。
「・・あの子、色々あって恋愛逃げ腰なの。
だから、頼むね。」
「はい。」
この調子だと、僕の本心に自ら気付く可能性は低い。
少しずつ焦らず詰めていくしかない。
「あと、
ライバルは身近にいるかもよ。」
なまえがちーちゃんと呼んでいた先輩が目線を向けた先には、今しがた登校してきたばかりの東峰さんだった。
「旭ー!おはよ!」
「ぉ、おぅ。おはよー。」
「じゃ、さっそく、なまえ探してきて!」
「え?何やったの?」
もー。とため息をつきながら自分の机と思しき場所に鞄を急いでおいた。
「まぁまぁいいから!早くしないと先生来ちゃうから!月島君も教室戻りなね!」
はーい!かいさーん!!と明るく宣言した先輩の横を、東峰さんが急いですり抜けていった。
2年の溝と、学年の差。
そして、ライバルの出現。
重くのしかかる課題に、頭が痛くなる。
ただでさえマイナスからのスタートなのに、こんなところで引いてたまるか。
らしくない自分に、目を背けたくなる気持ちを押し殺して、胸の中で燃え上がる静かな闘志と対峙した。
(20141006)