ハイキュー!!

□第二話
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すれ違った時に見えた笑顔に懐かしさが広がって

ふと、思い出してしまった。


トラウマ級の体験を。








Love me tender







願わくば、あなたの視界に入りたい。

羨望とは形容し難い、執着に近い、嫉妬のような独占欲。

あの日、あの時、あの場所では、確かに僕だけのものだったはずだ。

小さなことに固執しない性格だと認識していたのに、改めさせらるほどに、胸の中に残った喪失感とざわめきは収まることを知らなかった。





放課後、なまえの連絡先を聞いていなかったことを思い出して、山口に先に部活に行かせて3年の教室をのぞいた。

自分らしくない失態だと思った。

それほどまでに、再び会うことができたことに舞い上がっていたということだろうか。

自嘲する。

・・そういえば、あの人何組なんだ?

それすらも知らないんだ。

たった1日、特別な時間を過ごしただけで、名前と年齢くらいしかなまえの情報は知らないのだ。

そして、彼女は僕との過去を忘れたがっている。

むなしいくらいに、胸を覆う虚無感は、ただ子供のような怒りを込めたものではなく、寂しさからくるものだと気づいていた。

なまえがどれだけ僕を忘れたくても、それを叶えてやる気はさらさらない。

暗闇にうっすらと光がさしたように、自分の胸に残る小さな希望に縋り、期待せずにはいられなかった。

ちょうどすれ違った3年の女子生徒に尋ねる。

「あの、みょうじなまえって何組かご存知ですか?」

「ぇ!?なまえ??たしか、3組だけど。知り合い?」

3組か・・・進学クラスじゃないってことは、そんなに頭良くないんだな。

知り合いかと問われれば知り合い程度の関係だ。

しかし、それを肯定するのは憚られた。

せめて、ちょっとした話題になればいい。

ちょうどいいことに、目の前の女子生徒は噂話の好きそうな顔だと思った。

「えぇ。僕の片想いなんですけどね。」

まだ廊下には多くの3年生が残っており、地獄耳な生徒たちにはかっこうの餌となった。





放課後、嫌な予感がして足早に教室を出た。

図書室へ向かう階段を上っている時に、月島に捕まった。

嫌な予感は的中してしまった。

そのまま、連行されるように、昼間話をした屋上へと引っ張られ連れ去られた。

あっけにとられる私をよそに、月島は淡々と言葉を発した。


「スマホ。出して。早く。」

この後部活でもあるのだろう、イライラとした態度と表情を隠そうともせず自分のスマホを片手に、反対の手は私に向けられていた。

「え!?えーっと、・・あっ。」

急かされるままにスマートフォンをとりだすと一瞬の間に自分の手から離れ、月島の手中にあった。

「パスワードは?」

「え。」

「パスワード。」

「****。」

「・・ふーん。」

「なっ、なによ。」

「別に。」

ぶっきらぼうに、放たれた言葉にハッと我にかえる。

「っていうか、なんで?」

「はい?」

「別に連絡先なんて交換しなくても。」

スマートフォンに向けられて伏せられていた眼が私に向く。

鋭い眼光で射抜かれる。

ゾワリと背筋が凍るような感覚が襲う。

「なまえさんって、自分がしたこと理解してます?」

唐突にたたきつけられた言葉は確認の意味を含んでいた。

罪の重さを再認識させるような。

「あの部屋、次の日に訪ねたらもぬけの殻とか、幻でも見たんじゃないかって戸惑いましたよ。

どんな嫌がらせなんですかね。

見ず知らずの中学生捕まえて、何、やったんですか?なまえさんは。」

馬鹿にしたような目で上から見下ろす憎き後輩はもっともなことを言っているのだ。

月島の言葉に狼狽する。


分かっている。もちろん分かっているとも。


誘ったのは他でもない、この私自身なのだ。


「・・分かってる。けど。月島だって、あれっきりって分かってたでしょう?」

あれは、一度きりの、最初で最後の秘め事で、継続的な意味を孕んではいなかった筈だ。

“次”を期待させるような言葉も物言いもしていないと記憶している。

「それを決めるのはなまえじゃないでしょ?

あと、いい加減蛍って呼べば?

名字呼びとかムカつくんだけど。」

だんだんと不機嫌を隠さなくなると、表情が曇っていく。

整った顔が無表情になると、こんなにも作り物のように冷たい顔をするのか。

「あの時は、馬鹿みたいに蛍、蛍って呼んでたのに。」

うすら笑いを浮かべて追い打ちをかける。

少し尖らせた口をみて、子供が拗ねているようにも見えないこともないと、なまえは思った。

そう思ったら、少し、ほんの少しだけだが、目の前にいる、月島蛍への恐怖心は薄れ、純粋な興味が湧いた。


「・・・蛍。」

一瞬の躊躇はあったものの、久しく、呼びなれた音は、簡単に空気を揺らした。

「何。」

「ごめん。」

「何が。」

「・・連絡先、教えなかったこと・・?」

「と?」

「と?」

「と。」

「あ〜、・・嘘をついたこと?」

「はぁ。ま、それは追々聞いてあげるよ。」

「わー、ツキシマクンヤサシーイ。」

ギロリと擬音さながらの視線が突き刺さるようになまえに降り注ぐ。


「とりあえず、今日一緒に帰るよ。

ちゃんと待ってなよね。」

「え゛っ。」

「文句あるの?」

「・・ありません。」


なまえの返事に満足したのか、屋上から屋内へと続く扉に月島は向かう。


なまえは大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出した。


「まいったな。」



あの頃のしりぬぐいを今更になってすることになるとは。






(20141004)

 

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