ハイキュー!!

□第一話
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「こんなところでお会いするなんて

・・・思ってもいませんでしたよ、なまえさん。

みょうじ先輩ってお呼びした方がいいですか?」


名前を呼ばれて、刹那、腕にある熱。

引力に導かれるままに振り向けば、金色の短髪にメガネをかけた高身長の見覚えのある男。

瞳の奥は全く笑っていないのに、

さわやかな、外面だけはいい、笑顔の仮面を張り付けた男子高校生。

過去に起こした過ちの被害者が、よもや自分の目の前に現れようとは、

誰に予想できたであろうか。


烏野高校3年、みょうじなまえ。


まさか、二度と会うはずもないとたかをくくっていた男の子と、


烏野高校で再会するとは



思ってもみませんでした。





〜Love me tender〜






「僕のこと覚えてないですか、みょうじ先輩?」


口元は笑っているのに瞳の奥が真っ黒でみょうじなまえは微動だにできなかった。


目の前に佇むのは、今年の1年生でも1,2を争うイケメンで有名な月島蛍。

身長こそ違うが、見覚えのある面影に冷や汗がだらだらと流れるのをなまえはまるで他人事のように感じていた。

忘れかけていたあの日の記憶が瞬時に思い起こされる。



昼休みの渡り廊下。

1年から3年の生徒が往来するこの公共の場で、すれ違いざまに腕を引かれ振り返ったのが運のつきだった。

「あ、・・ぉ、覚えてるよ!ひさっ、久しぶりだね。」

無理やり絞り出した声は、不自然に裏返り、相手に緊張していることを悟らせた。

「ほんとですよね、あれからもう、2年・・ですか。」

しみじみと懐かしむような言葉と素振りは周囲の人間に興味を持たせるのに十分な親密性を強調している。

「そそそそ、そうだね。あは。もう、そんなになるのかね。」

さっさと切り上げて友人の待つ教室に帰りたいのだが、掴まれた腕はいまだ掴まれたままで逃げることを許さない。

目が泳ぐ。

醸し出すただならぬ気配に周囲の好奇の目に曝されている。

いや、りっぱな曝しものだ。


「酷いですよね、一度も連絡くれないなんて。

僕、トラウマになっちゃいましたよ〜。

まさか「ストップ。」はい?」

人のよさそうな笑顔で接しておいて、性格の悪さは以前と変わらない。・・過去の復讐だろうか。

あの頃の、すべてにおいて期待も興味も抱いていないような冷めた目を思い出しても、こんな羞恥プレイで人を辱めるのを喜ぶタイプには思えなかったのだが。


偶然にせよ、必然にせよ、私たちには公共の場で声を大にして言えないような過去がある。

ここでうっかりその話をしてしまえば、一気に全校に広まるのであろう。

むしろ今現在も、オーディエンスの視線をほしいままにしている。

これ以上は耐えかねる。




「場所、変えない?」

苦渋の決断だった。

ここでじゃあサヨナラといってすんなり腕を放してくれるとは到底思えない。

うっかり過去の話をされて変なうわさを立てられるのも癪だ。

それならば、いっそ年下のイケメンを連れて歩いて行ったくらいで留める方が無難だ。

後で何か聞かれても、『昔助けてもらったことがあってね。』なんて言って恥ずかしがっておけばそれ以上詮索されないだろう。

「・・いいですよ。」

眉間にしわを寄せ訝しげに、そして不機嫌そうに見下ろす双眼。

ほんと、良さそうな顔してないけどね、月島君。




なんとか彼の腕を引き屋上へと歩みを進める。

「なんで、会っちゃうかな。」

ポロリと漏れた本音に、月島を引っ張っている手とは逆の手のひらでバチンと音を立てるほど勢いよく口を覆う。

しまった。失言だ。

チラリと後ろを盗み見るようにさりげなく振り向けば、尚も不機嫌そうに淡々と歩く月島の姿が映る。

「まぁ、なまえさんにとっては二度と会いたくない相手かもしれませんけど。

こっちとしては、腑に落ちないというか、気に入らなかったもので。」


せかせかと歩くなまえに対し、大股開きでもゆったりと歩ける月島。

対照的な二人はさぞ滑稽だろうと、なまえは自嘲する。

あれは、一時の気の迷いであり、過ちであるのだ。

これ以上思い出したくもなければ、掘り返してほしくもない。

嫌な思い出とのセットの、私史上最大の秘め事なのだ。

これまで、誰にも触れることのできなかった、記憶からも抹消したい、自分の心の奥の柔らかい所に秘めた秘め事。





屋上の扉を開けて外へ出ると月島の腕を離し、振り返って彼を見つめる。



「なんで無視しないの?」

「・・・なんで無視してやらなきゃいけないの?」

心底めんどくさそうに答える月島。

「こっちとしては、なんで連絡先も教えずに消えたりしたのか知りたいんですけど。

・・・あんな誘い方しておいて普通に付き合うとかは考えてませんでしたけど、

理由も説明もないまま勝手に消えるとか・・・ありえないでしょ?」

「だ、だって。もう2度と会うつもりなかったし。」

「へぇ〜。」

月島は、先ほどなまえとすれ違う前に購入したのであろう、手に持っていた紙パックのお茶にストローをさす。

「君は、クールで、他人に対して無頓着そうだったし。」

「それで。」

対話する姿勢はあるのか、なまえの次の言葉を待つ。

「後腐れなさそうだったから。」

少しの沈黙が流れた。

怒らせた、のだろうとは思う。

身勝手なことを言っているのは重々承知だ。

残り少ない高校生活をあと1年、平和に過ごせるか否かの瀬戸際といっても過言ではない。


「ま、こっちもいい加減忘れてたんですけど。

顔見たら思い出したんでからかってみただけです。」

万人受けしそうな笑顔で簡単に言い放たれた言葉は、なまえを安心させるには事足りる言葉だった。

「そ、・・・そっかぁ〜。」

これ以上深く関わることはないのだと、ただ、今日はたまたま声をかけられただけ。

なんだ、そっか、良かった。

ホッとした表情を見せたのがいけなかったのだろうか?


「じゃぁ、もう学校では話かけないで「でも、気が変っちゃいました。」え?」


「とことん利用させてもらいますね。」

女子から呼び出されるのとか、ホント面倒なんですよね。

きっと彼のことを好きな女子が聞いたら卒倒しそうな非情な言葉を笑顔で吐き捨てる。

「そんな!」

「だって、過去のことばらしたくないんでしょ?」

鋭い眼光に突き刺され、返す言葉もない。

「うっ。卑怯だ!」

「どっちが?」

月島の目には、どこか、悲しみが含まれているように感じられたのは、私の、妄想だろうか。

「〜〜〜っ!」


「ま、これからよろしくお願いします、みょうじ先輩。」

じゃぁ、僕、友人を待たせてるのでと言って踵を返した月島は、ひらりと手を振って、私に背を向け、屋上を後にした。

私には、死刑宣告のように感じられたのだった。








3年の4月。


高校最後の1年は波乱の幕開けでした。







(20141004)

 

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