幻想★小説
□SS WORLD
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『大切な思い』
「お疲れさま、これ少ないけど今回のギャラね」
そう言って翔子さんに手渡された茶封筒を受け取り、自然と口元が弛んでいた。
「ぁ、ありがとうございます。まだ仕事って大した事してないのに頂けるんですか?」
デビューして数日の間、僕らがやった事と言えば数枚のポスター撮りだけだった。
所謂、会社の宣伝ポスターでイメージモデルとして起用された僕らのお披露目みたいなもの。
瞬く間に街のあちこちで貼られ、駅の郊外には大きなパネルが飾られていた。
「十分過ぎる程反響を得ているのよ。もう、何枚もポスターなんて貼り直してるくらい」
そう言えばスタッフの誰かがそんな事を言っていた。
僕らのポスターが日に何枚か盗まれている事を。
それがどう言う事なのか僕にはピンとこなかったけど、皆は偉く喜んでいた様だった。
「これから雑誌の取材や写真集なんかもあるから、すぐにこの倍くらいはもらえる様になるわよ」
「ぇ、ぁ、そうなんですか?」
金銭感覚に疎い僕は、今手にしている金額が多いのか少ないのかさえ検討もつかない。
とにかく、初めて自分達で働いて稼いだんだ。
やっぱり笑わずにはいられなかった。
「初々しいわねー!」
手元を眺めて口元を綻ばせていた僕を見て、翔子さんの目元が下がる。
「その気持ちがこのまま続いてくれる事を願うわ」
そう言って立ち去って行く翔子さんを眺めながら、その言葉の意味が分からず、もう一度手の中の物に視線を落とし、そっと胸に押しあてた。