Season Library
□Sweet Concerto
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初めて彼のピアノを聴いた時、全身が震えたんだ。
弾きなれた曲が、全く違うモノに聞こえた。
100人いたら、彼と同じ解釈をする奴は一人居るか居ないかだろう。
ってくらい奇抜な解釈だった。
それなのに、耳に届く音は柔らかくて、温かかった。
ちっとも不快じゃなかった。
それからは、気になって仕方がない存在になった。
こっそりレッスンを抜け出して、彼のレッスンを影から見たり。
俺、何やってんだろ…。
そう思ったけど、一度聴いてしまったあの音は
俺の頭から無くなりはしなかった。
名前を呼ぶまで、一ヶ月かかった。
いきなり話し掛けられて、驚いた顔が思いがけず可愛いなって。
はにかんだ笑顔に何故か心臓が高鳴った。
一年かけて俺達は友情を育んだ。
そして、俺は
「最後のバレンタインコンサート、俺と一緒に出ないか?ヘソン」
そう切り出した。
本番までの二か月。
俺達は練習に精を出した。
下宿が近かったのも幸いして、お互いの部屋に泊まり込んで朝まで弾いて、
そのまま学校に行き、夕方になれば、もう片方の家に帰る。
こんな毎日を繰り返して、ヘソンとの距離を縮めていった。