通り道
□僕の世界
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「ボタン、閉めた方がいいよ」
「ここ、跳ねてるよ」
「ホラ!水飲んで」
ひょんと俺の世界。
事あるごとに、何かと世話を焼いてくれる大好きなひょん。
俺を構う時のひょんの顔は、兄貴ってよりもオンマの方が合ってる。
しょうがないな。って顔して、目尻を下げて俺のことを構ってくる。
いつからそうだったかなんて、憶えてないけど。
気がついたら俺の世話はひょんの役目になってた。
一緒に住み始めた当初、同じ部屋だったからかもしれないけど。
「母親」ってものをよく知らなかった俺は、ひょんがオンマそのもの。
辛い時は一緒に泣いてくれたし、嬉しい時は抱き合って喜んでくれもした。
ひょんが作る食事は、好き嫌い言わずに平らげた。
今思えば、俺が嫌いなものが食卓に上がった事は無かったけどね・・・。
甘える事を知らなかった俺は、何でも自分でやろうとして失敗ばかりを
繰り返してた。
出来る事と出来ない事の区別がつかなかった。
そんな俺をいつも助けてくれたのがひょん。
オンマに甘えるみたいに膝枕をしてくれて、大人になることを教えてくれた。
だけど、俺は「大人」になんてならなくてもいいよ。
いつまでも、いつまでもひょんといたいんだ。
俺の世界はひょんの腕の中だけでいいよ。
雛のままなら巣立っていく必要もないだろ・・。
俺は翼なんか欲しくない。
何処へも行きたくなんかない。
飛べない鳥がいたっていいじゃないか。
俺はひょんがそばに居ないと生きていけない。
俺の世界はひょんを中心に廻ってる。
そして、ひょんの世界も・・・・