いろいろ詰め込み短文

□春の夕焼けに浮かぶ星屑
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春風は屋上にいると、とても心地良い物になる事を学校生活最後の今になって初めて知った。
手には卒業証書。
胸には造花のブローチ。
花に付いたリボンには「卒業おめでとう」

数年間の思い出の舞台となった学校とは、今日から私は部外者になる。

屋上は、最後に自分の姿を目に焼き付けろと言わんばかりの校舎を余す所なく見せてくれる。
奥に見えるのは私が最後の授業で使った教室。
最後のチャイムの鳴り響いたあの一瞬、誰もが思ったに違いない。

――さよなら――

チャイムの音が消えてしまう、その時まで、誰もが口を閉ざして、思い思いに此処に別れを告げた。

振り返ると校庭が見える。
雪の日の白い庭。
体育祭のあの熱気。

色んな顔を見せた校庭は、今は夕焼けに染まり、寂しげな表情を見せる。

誰もいない。
まるで世界は私一人だけの物になったかの様に感じる。
みんな、それぞれの家へ帰ったのだろう。
けれど、此処にみんなで集まる事は二度と無い。
今までの日々も、これで終わった。

今思えば、みんなでいたあの時がどんなに貴重な物だったか。
今更になって知る。
大切な物の重みは無くしてから気付く物なのかもしれない。

…茜色に、星屑が混じってきた。
帰る時間だ。
だけど、帰ったら、何か大切な物を失ってしまいそうで。

茜色の星屑が、世界を包む。
私にだけ特別に最後の学校の記憶を美しくしてくれているのかもしれない。


失ってしまうものは、失くすことを拒みながらも、失ってしまう現実を受け入れ、美しさに遅ればせながら気付く。

失いたくない
思い出の存在にしたくない。

涙が茜色の世界に零れていった。

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