屍鬼の二次創作(小説)

□憎しみの帰郷、暗闇の居住者
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この村を出て、都会へ行こうと心に決めたのはいつだっただろうか。
柏木梢(かしわぎ こずえ)は外場へと向かうバスの中、思いを巡らせていた。
夏の陽射しを眩いばかりに古びたバスは受け止めている。

確か中学校の夏休みの出来事だった気がする。
あの日も今みたいに暑くて陽射しも凄かったと記憶している。
両親と妹と共に旅行で遠くの東京に行っのだ。
あの時受けたとてつもな衝撃を今も忘れない。
ひしめきあうかの様に建ち並ぶ建物。
人の絶える事のない道路。
夜になっても昼かと思うくらい明るいネオンサイン。
どこを見ても外場とは違う場所。

その日から都会に憧れた。

卒塔婆なんかが由来の地名の村に生まれた事がとても嫌になった。
そしてその思いは中学卒業と共に弾けた。
ついに外場を出たのだ。
上京し、とても高いレベルの高校に入った。
そして卒業し、大学に入り、テレビ局に入った。
アナウンサーを目指して。

入社が決まった時は絶頂だった。
何もかもが幸せだった。

だけど、登り詰めたら後は下るだけだった。
自分より年下の都会育ちの娘達の方が上手く喋る。

どんなに頑張っても世間は自分に誰も目を向けてくれなかった。

他のアナウンサーからは蔑んだ様な、嘲笑うかの様な目しか貰えなかった。
番組には出させて貰えなくなり書類整理が主な仕事になった。
挙句の果てに書類を無くすと言う大きなミスを犯した。
そして一か月前、首を切られた。
そう宣言された時はなにも感じなかった。
数週間して住んでたマンションの管理人にお金が払えなくなり立ち退きを命じられた。すぐ部屋に帰るとただ、涙が溢れた。
嘲笑われながらも頑張って来た自分に泣いた。
都会出身だからと言って自分より人気を集めたアナウンサーに怒った。
学歴ではなくアナウンサーの時の事や出身地を重視し、どこも入社を拒否された自分が哀れだと思った。
自分が外場に生まれてきた事を呪った。
そして帰る場所が外場しかないという現実にまた、泣いた。
そして今日、朝早くに荷物をまとめ今まで住んだマンションを出て、外場へと帰る。

心から憎い外場だが今はここに縋るしかなかった。


――もうすぐ、外場。
大嫌いな外場がもう、すぐそこに見えてきた。

日もいつの間にか傾き、空は血の様な茜色に染まっている。
からすも鳴き、とても不気味で。


不吉な何かを感じるには十分な景色だった。

バスが止まった。
久々の――――そして異様な外場の景色へ、梢は一歩、前へ踏み出した。
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