捧物

□彼女までの方程式
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有無を言わさずに躯を洗われ、浴槽に浸けられて。それから、さっさと躯を洗ったティキも入ってきた。二人で入ってもそんなに狭さを感じさせない浴槽で、アレンは恥ずかしくなったのか後ろを向いてしまう。

「ア・レ・ン♪」

「ふぁ…っ!!」

突然抱き締められ、肩口には端正な顔があって。

「俺と結婚して?」

これまた突拍子も無い発言に、数回目をぱちくりとさせた。大きな瞳が目詰める先には、何時になく真剣な表情があって。

「昔からずっとお前を見てきた…年を重ねる度に可愛くなってくし、その内好きだって隠せなくなってきた。だから、昨日は嬉しかった…」

「せんせ…」

「先生言わない…」

困ったように、ティキは笑う。目の前の少女が泣き出してしまったから。

「昨日…中出し、シたくせに…っ」

ゴシゴシと涙を拭って、搾り出した声は震えていた。

「だって離す気なんかねぇもん…それだけ余裕なかったの」

「べんきょ…ぃみ、なくなっちゃぅ…」

「え…?」

「だから…べんきょぅ…せっかく、みてくれたのに…ばか…」

悔しそうな声で、ふわっと優しいシャンプーの香が漂う。

「アレン。行動と言動が一致してないから」

触れた肌が、暖かい。回された腕に、思わず笑みが零れた。

「ふふ…すきだから、いんだもん…♪幸せにしてね、旦那様…」

正面で向き合い、一際綺麗な笑みを浮かべたアレンは優しくキスを送った。それが、返事であるかのように…。

「そんなの、当たり前だろ」

柔らかい肌が擦り寄ってくるのを嬉しそうに抱き留めて、額に口付けた…そこから瞼、頬、鼻と順番に口付けていき最後は、再び唇へ。

「「愛してる」」

互いに寄り添い、微笑みあって交わす言の葉。温かくて擽ったい、無垢な気持ち。
時を忘れて沢山キスをした。その日一日は、二人っきりの濃密な一時を送って…。

あれから数ヶ月…中学生だった少女は十六という若さで、二人の子どもを出産した。双子の男の子と、女の子。癖のある黒髪で色白な事は除き全てが父親にそっくりな息子と、母親と瓜二つな可愛らしい顔で琥珀色の瞳を持つ娘。子ども達はそれぞれ“レオン”と“リリア”と名付けられた。

「「まぁ〜っ!!」」

漸く覚えたばかりの言葉をたどたどしく発音し、無邪気な笑顔を見せるわが子に自然と破顔してしまう。アレンは編み物をしていた手を休めて、這い這いでやってくる二人の頬に口付けを送った。

「なぁに?」

「う!」

言葉を掛ければ、鸚鵡返しに返してくる子ども達はまだ言葉を話せない。その為、母親の直感というモノをフルに活用しなければならなかった。

「どうしたの?お腹空いたかな?」

問い掛けても、返事が返ってくる事はないのだが。解っていながらも、一応と声を掛けるのは言葉を認識させる為。母親に抱かれて、レオンは元気一杯といったご様子だがリリアは少し不機嫌そうだ。

「リリアはパパが好きなんだよねぇ?」

「あぃ!」

“パパ”という言葉に、笑顔を見せた娘に少し複雑な心境に陥っていまう。腹を痛めて産んだ母よりも、遊んでくれる父ですか…。どんよりとした気分になっていると、背後ろから伸びてきた腕がリリアをヒョイっと抱き上げた。
途端にきゃっきゃっとはしゃぎだす娘の頬に、アレンがしたのと同じように口付けて。

「パパもリリアが好きですよ〜」

スーツにみを包んだティキが、鞄を下ろしてアレンに向き直った。

「ただいま、アレン♪」

「お帰りなさい、ティキ」

娘を片腕に抱いた侭で、息子を抱く妻の肩を抱き寄せる。愛しいアレンの頬にキスをしてから、今度は再び子ども達の法を向いた。

「ちび達は今日も元気だったかな?」

「「あ〜ぃっ!!」」

笑顔で問うティキに元気よく挙手しながら、眩しい笑顔のレオンとリリア。
家族四人水入らず、偶には喧嘩をしたりもします。けれど必ず仲直り。自分が悪いと思ったなら、素直に謝りましょう!がモットーの仲良し一家です。
これからも、夫婦二人で子ども成長を見届けましょう…?
これが、俺と彼女の方程式。


END
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