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つぶやく 垂れ流す
◆no title 

 ある日誰かが彼女をそう呼んだ。「血濡れ烏」と。
辺りを一掃した彼女は、やはり今日も「血濡れ烏」だった。
降り注ぐ紅を白い肌に受け佇む彼女。
こびりついた紅。
彼女はそれを顔周りだけ乱暴に拭うとため息を一つついた。
「帰ろう、ダクト」
温かい風呂に入りたいと笑った。
「まず町に入れないからちょっと川で顔洗おうね?」

2013/09/10(Tue) 08:37  コメント(0)

◆no title 

それから暫くした食事の日。内心ちょっとした期待を持ちつつ、狩りをする。
でもいつものようにすんなり終わる。ああ、ツマラナいわ。
かぶりついて血を戴く。

 けれど、もう食事も済む頃に声がかけられた。
「やあお嬢さん、また会ったね。」
「会いに来た、じゃなくて?いやぁね、ストーカーだなんて。」
声、穏やかな眼差し。嫌いじゃないわ。
その人は少し小さく笑った。
「キミこそ探してたり?」
「しないわよ。」
もはやゴミと化した、食事を処分する。
「あんた、名前は?この際だから覚えといてあげる。」
口元を拭い、その人に近づく。
「わたしはアントワーヌ。アントワーヌ・ルロワだよ。アンって呼んでよ。」
すっと差し出される手のひら。巻かれた黒い包帯を見つめた。
恐る恐るわたしも手を差し出すと、アントワーヌはわたしの手を握る。握られた感覚は少し大きい気がした。
「きみは?」
「わたしはエイルよ。」
すると、アントワーヌは思案顔になった。その隙に手を引き抜く。

「エイル‥ああ、翼か!可愛いね、翼ちゃん。」
かああああ‥と朱くなるのがわかった。
「‥んづけした‥ちゃんづけした…!!」
スカートの裾を握る。翼を広げる。
「ちゃんづけは嫌?」
「嫌い。大嫌い。なんでなんでなんでなんで!!あー!!ご飯終わってからあんた来るから、お腹も一杯だし!!」
お腹減ってたら絶対今すぐコイツを食べてた。
ちょっとアントワーヌが困っているのがわかった。
「帰るわ。じゃあね、ルロワさん。」
上空に舞い上がると、空が朝焼けを迎えていた。
「綺麗…。」
緩やかに気持ちが澄んでいく。
綺麗なものは大好き。朝焼けは綺麗。アントワーヌは…―綺麗。

2013/09/07(Sat) 21:55  コメント(0)

◆no title 

「“隠されし姫君”の救出ですって?あなた達なに馬鹿げたことを仰っているのかしら…?」
「嗚呼、姫君。我らの姫君が我らを。」

「愚かだわ。仲間が血まみれだというのに…。私は始めから隠されていない。常に赤は存在した。隠されたのは蒼。あなた達が傷つけた人こそがその“隠されし姫君”。これ以上わたくしの兄上を、紅鬼の妹を、傷つけるというなら受けて立とうぞ?」

2013/09/01(Sun) 13:16  コメント(0)

◆地下牢の一件 

気がつくと、必死に頬を舐める炎九がいた。
「‥禁じた、はず‥だよ。」
「ああっ!!主上‥よかった。よかった…。」
白い体を押しやりつつ身体を起こすと、小汚いもはや声も出せずに泣いている少年がいた。
ひどい貧血のようで視界が霞む。
何があったのか、鈍い痛みを発信源に触れた。
胸は少し変色した紅に染まっていた。露わになった傷口はまだ閉じていない。
ぼんやりとした頭で考える。
ああ、そうだ。ここは地下牢で…彼の怒りに触れて、能力を使われたんだった。
まだ彼は泣いていた。
ふらり、とよろめくものの立ち上がり彼に歩み寄る。
そしてそっと彼の頭を抱き寄せた。
「大丈夫、安心して。」
怖くないよ、と頭を撫でる。
でも限界だ。早く一度上に戻らないと。
ふらり、ふらり、と外に向かう。
が、血がこびりついた床が目に留まり、水を張ったバケツを床にぶちまける。
また来る。そう言ってから重たい鉄格子をあけ、鉄の扉を開けた。
ずるずると体を引きずるように歩く。
炎九は心配で今にも泣きそうだった。
脂汗が止まらなかった。感覚がない。闇雲に足を動かし、霞む視界の中自室を目指した。
ドンっと何かにぶつかった。
ひゅぅっと息が詰まる。
「鷲頭様っ」炎九が口を開いた。
「探したぞ…ッ!?八雲!?」
汗の浮いた、赤くなった顔のジンだった。急いで体を引き離すが、見事に彼の白衣は血に染まっていた。
「どうしたんだ?‥下で、か?」
肩をがしりと掴まれた。喋ろうとする炎九を遮り食い気味に返答する。
「ちが…う。」
ぐらりと足元が崩れた。
とっさにジンが抱き止め、そして抱き上げた。
「まずは手当てが先だ。」
駆け出したジンの腕の中。ジンの横顔を見上げる。
ああ、あなたも泣きそうじゃないか…。

連れて行かれたのは、ジンの研究室だった。
ジンの寝床のソファに寝かせられる。
手早く応急処置道具を一式取り出し、血まみれになった元は白いブラウスに鋏を入れた。
消毒薬で拭われると意識が飛びそうになるほど痛んだ。
「堪えてくれ。」
また、泣きそうな顔でジンが言った。
一通りの処置をすると、ジンは毛布をかけてくれた。そして扉を目指して歩き出す。
彼のところへ行くんだ。全てバレてしまう。彼を咎める?
去り行く白衣の尾を掴む。
「ダメッ!!行かないで!!やめて!!ジン!!お願い!!悪くないの、私が悪いの!!だから…!!」
白衣はするりと手から抜けていった。ジンは振り向かずに足早に行ってしまった。


枕元で人の気配を感じた。
「…お兄、さま……?」
問い掛けると動きが止まった。
すぐにふとなぜそう思ったのか疑問に思った。
目を開けると、薄明かりに照らし出されたジンの顔が間近にあった。
「ジン…。」
ジンの顔が見る間に赤くなった。
「…起こしたか。」
「?」ひんやりとした感覚に、胸のあたりに手を伸ばすと、暖かいものに触れる。
「寝ているうちに終わらせるつもりが…」
たじろぐジンに首を傾げる。
「まだ…痛い…。」
「寝てな。」
治療をしていたらしかった。
終わらせていくジンの手際は良かった。
「…彼の…」
ご飯を届けなくては、安心させなくては。そう思った。
「しばらく代わるから安心して寝ろ。」
頬に落ちてきた、雫を拭う。
「…ジン、泣かないで。」
輪郭をなぞると、ジンの塗れた頬を感じた。ジンは何も言わなかった。
「ごめんなさい。」
「そう思うなら、無茶はしないでくれ。」
ジンの顔が迫って、額と額が合わさる。
暖かい、と思った。優しい温もり。安堵に包まれて、再び眠りについてた。

2013/08/17(Sat) 04:01  コメント(0)

◆no title 

 パキンと、なんとまあ刀は簡単に折れてしまった。
それと同時に傍にいた赤龍が「嗚呼、小娘。これは…すまん…。」と刀に切られたように縦二つに割れて消えていく。
自分を囲む妖魔たちの輪は、地を這う残り火を避けてジリジリと間合いを詰めてくる。
魔力も体力も、もう尽きていた。
炎九は痛手を受けてしまって、もう出て来れない。
「これは詰んだなぁ…。」
ふふっと笑いが出る。脚が堪えきれず、頭から崩れる。
咽せ返るような鉄の臭い。紅の海。俯せに全てを投げ出す。

一匹が痺れを切らし飛びかかってくる。

避けきれない。

そう思った。
此処までかな。

目を閉じる。

ダンッ


ビシャアアと生暖かい血が全身に降りかかった。
新たな痛みはない。
「随分と、追い込まれているな。」
空耳か。はっと目を開けると、目の前には闇に紛れる様な真っ黒な男が立っていた。
「俄、雨…ッ!?」
男は相変わらず、何も言わない。
俄雨は纏うマントを翻す。氷の杭が無数に現れ、次々妖魔へと突き刺さっていった。




火のはぜる音で目を覚ます。
ひどい頭痛。倦怠感。痛み。激痛。
霞む視界に人影を捉えた。
「‥がう。」
掠れた声でそう呼ぶ。
男は顔を上げこちらを見た。
「また、助けてくれたの…?」
「少し休め。俺は行くが。」
そう言って火をかき消す。
「待って。」
手を伸ばすと既に人影はなく、先ほど彼のいた場所には黒い狼がいた。
茶色の鳥の羽根が一枚落ちてきた。
「周囲に妖魔は近寄らないとは思いますよ」
狼はそう言って、近くに座った。

2013/08/17(Sat) 02:41  コメント(0)

◆no title 

夏祭りで手に入れた金魚は、丸い鉢の中、赤い着物を纏いヒラヒラ泳いでいた。
ただ優雅に尾を引きヒラヒラ泳いでいた。

さすがは花魁たちが愛した存在だと、感心した。



ある日金魚は腹を見せて浮いていた。
濁った瞳。
ぎょろり、ぎょろりとこちらを見た気がした。

ぱくっ ぱく っ と口を動かし、鰓が同時に見え隠れした。
夕日が射す中、蝉時雨。


水の中でしか生きられない可哀想な金魚。
狭い水槽の中で生かされ続ける金魚。
捕らわれ続け、狭い世界、檻の中で生かされ続ける花魁たち。
ああ、彼女たちは自分を重ねたのか。
そう気がついてしまった。


祭で売られる金魚は死にやすいと言う。
病気を貰っていたりするから。
花魁も病気を貰いやすく死にやすい。


引っ掻いて、引っ掻いて、えぐり出した小さな穴は、地表より幾らか涼しく、幾らか水に近かった。

赤い着物を纏った婦人をその小さな穴に横たえて、少しだけ水をかけてやった。

おやすみなさい。


優しく土をかけていく。




見えなくなる。



水の中で生きた生き物が、なぜ土に還るのか。




主を失った鉢の中、水草はゆらゆら揺れていた。

2013/08/04(Sun) 15:38  コメント(0)

◆no title 

今もこの胸の奥底には、貴女が最期に見せた笑顔が焼き付いております。
君が最期に見せた笑顔。今も心に残る。
君の声、温もり全て。失う前にどうか。
死に逝く私の中で人知れず死んでいく君よ。
忘れ去られないように。
どうかお願い。

2013/08/03(Sat) 22:21  コメント(0)

◆no title 

シャワーを浴びる。
髪を乾かし、道具を持って町に出る。
人目に付かない様に裏道を抜ける。
猫の食事を邪魔して、鍛冶屋に入る。
「久しぶりだな」
半裸の男が出迎えた。
茹だるような熱量の窯が火を吐く。
男は作業から目を離す事無く、「打ち直しか?」
カーンカーンと良い音が響く。どうやら仕上げ作業らしい。
「頼める?」
「あー…次の出発は?」
「未定。」
「じゃあ急ぐかも知んねェのかー…」
「忙しい?」
「いや、受けてやるよ。三日後に来い。」
「ありがとう。お願いします。これお金。」
受付台に刀と料金を置く。
「あいよ。じゃあな。」

具現化武器の癖に実体を持ち、消耗する赤龍は少し使いづらかった。
鍛冶屋も物好きな彼しか受けてくれなかったから、この稼業も楽じゃないなと思った。

2013/08/03(Sat) 14:47  コメント(0)

◆no title 

「室内では帽子を脱ぐ。」
室内にはいると、ジンがフードを掴み脱がした。
「…また喧嘩か?」
総団長が呆れ顔で私に訊ねた。
「天翔八雲ただいま帰館しました。こちら、報告書です。」
差し出すと総団長は溜め息とともに受け取る。
「ご苦労。で、喧嘩か?」
「何がですか?」
半ばしつこいなと思いながら答えた。
「周りの目の方が大事か?」
「何のことですか」
軽く苛立つ。落ち着け。
ジンはただ見守っていたが、溜め息を一つ吐いた。
「八雲。おいで。」
優しく呼ぶも私が応じないでいると眉間にしわを寄せて近づいて来た。
「失礼します。」
出て行こうとすると、するりとジンの腕が捕らえ抱き上げた。コーヒーと煙草の臭い。
そして目線を合わせてから口を開く。
「八雲。お前は忘れてはいけない。俺も総団長も死なない限りお前を見捨てない。だけど、俺が死んだらお前はひとりぼっちだ。…拒むな、畏れるな。」
「何を言っているのか分からないよ。カイ兄だっているわ。」
「カイムは…」バチンと頬をはたいた。
「…ジンは煩い。」
床に降りて、急いで部屋に戻った。
少し後悔した。ジンに向かってまであんな言葉を吐くなんて。

2013/08/01(Thu) 18:13  コメント(0)

◆no title 

「ヤクモーっ!みてみてヤクモーっ!」ドタバタと走り来る彼を視認すると、分厚い本を頭の上に掲げていた。
出迎える気がなかったのでそのまま帰還報告に行こうとすると彼は顔からすっころんだ。
そして頭に本を叩きつけた。
何をしているのかと呆れて眺めると、うずくまったまま起きる気配はなかった。
少し周りの視線が刺さった。
「ほら、起きろ」
手を差し伸べると彼は唸りながら顔を上げた。
涙目になりながら口をヘの児に曲げて、鼻から鼻血を流していた。
「はぁ…拭きなよ」
「…ありがとう」
ハンカチを受け取って拭う。
そして再びいつもの元気で立ち上がり本を見せびらかす。
「じゃじゃーん!!」
「…」
報告に急ぐ。
「待って!!ヤクモ待ってよ!!」
「部屋で聞くから」
聞く気などないけれど、そう言えばたいてい退く。
「こないだそう言ってさっさと寝たじゃん…!!」
囁く声がさっきから煩い。
(どんな魔術であの子を…)
(可哀想になあ)
(なんだよ、アイツ。あんな芝居で俺たちと友好的になれるとでも?)
煩い。煩い。煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い煩い。
「煩い!!!!!!」
少し焦げた匂いがした。
周囲が静寂に包まれた。
「…やくも…?」
少し怯えた顔。ズキズキとした。
それでいいんだ。
多分。これが、いいんだ。
無視をして先を急いだ。
フードを掴み深く深く被った。

2013/08/01(Thu) 17:45  コメント(0)

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