てきすと

□流れ星
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どうかあの人を返して、と言う言葉は届かないのです。だって願いはかなわないから。神様は叶えてくれなどしないから。そう呟くと、目の前の顔はにやりと笑った。それを睨むと目の前の顔の笑いはさらに深くなって口を開く。そして私にこう囁きかける。

「そんなに願いを叶えてほしい?」
「ほしいわ」
「なんでかな?」
「リボーンに、会いたいからよ」
「アイツは幸せな男だね」
「そうね、マーモン。貴方にもそんな人が出来ると良いのに」
「そんなもの、こっちから願い下げだよ」

そういうと彼はやれやれといった様子で、私に背を向けた。丁度針の長針が7を指した時間。もうこんな時間か、と呟くと彼は振り返らずに呟いた。「どんなに君がアイツを思ってもアイツは帰ってこないよ」知ってるの。そんなこと。だって彼の死を目の前で見つめた最低な女だもの。私、なんにも出来なかった。ただただ弾の貫通した穴を虚ろに見上げて、倒れる彼に焦った様子を見せながら、私はどこか冷静だった。嗚呼、死んでしまうんだ。彼の冷たい頬を撫でると彼は幸せそうに微笑んで呟いた。

「お前の腕で死ねるなんて、幸せだぞ」


答えられなかった。答えるために口を開いた瞬間彼の手からは力が抜けて、だらんと地に落ちてしまったから。触った彼の温度が、氷よりも冷たくなっていったから。遅かったけど、頬に涙が伝った。息が、出来なかった。上手く呼吸が出来なくて、空気がすえなくてただがむしゃらに泣いた。リボーンと言う言葉に彼は一度だって目を開けてはくれなくて、その黒い瞳を私には見せてくれない。悲しい、と言う感情だけが私の全身を支配した。医療班が着いて、リボーンを連れて行こうとするとき、私は抑える手を払って叫んだ。リボーン、リボーン、と情けなく震えた私の声がその場に響いた。そして私はそのまま意識を失って、そのまま。今まで生きている。


神様、連れて行ってしまったのですね。彼を、貴方が愛でた彼を。天才は若くして死ぬ。そう、間違いではなかったのです。ぽたぽた、と言う音が部屋に響いた。よかった、マーモンが立ち去った後で。と思うとドアに物音がした。嗚呼、やっぱり彼は目敏い。肩が震えた。上手く息がすえなくてしゃっくりを上げる私を、ドアを荒々しく開けたマーモンが優しく撫でる。耳元で掠れ、震えた声が聞こえる。我慢しなくていいんだよ、と。きっと彼も悲しいのに。神様は無慈悲だ。慈悲深くありながらも、神と言う存在はあまりにも無意味であり、絶対的な存在だ。きっとこの世の殆ど全ての人が思っていることでしょう。神様なんて居ない、と。居ないですよ。この世に神は。救いを与える神など、存在しないのです。


流れ星は叶えてくれない
(流れる星に3回唱えても叶えてくれないでしょう。だって唱えることも出来ないのだから)


『初雪を掴んだ罰は、』様、提出作品。

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