四字熟語で20のお題
□8.軽佻浮薄
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定刻を過ぎたというのにあの律儀な御剣が姿を現さない。
大方予想はついているものの、巌徒はあえて迎えに行く事はしなかった。
正当な理由で遅れてしまう場合は必ず連絡をよこし、それ以外は寸分の狂いも無く扉を潜る。
それがいつもの御剣だった。
特に苛立っているわけではない。
焦ることもしない。
ただ、おもしろくない。
仕掛けたのは御剣ではないにしても、かわせなかった御剣に責任が無いわけでもない。
矛先はも本来御剣と共に居る相手に向けられるべきなのだが、巌徒にしてみれば御剣が誰かと居るだけでおもしろくなかった。
本来今は自分が御剣と共に過ごしている時間なのだ。
それは仕事上の堅苦しい話かもしれない。
それでも少しだけ心待ちにしていただけに肩透かしを食らったようで、手にしたペンをくるくると回してみる。
「ちょっと自由にさせすぎちゃったかな」
直接的に巌徒につながるような事態は起きていなかったが、周りからはいろいろな報告を聞いてきた。
それでも今まで黙って見過ごすようにと話をしていたけれど、この辺りで少し抑制することも必要だと思う。
呼んだ所で来るかどうかすら分からない相手なのだから自分から赴いたほうが早いかもしれないと、巌徒はその腰を上げた。
「さてっと。何処にいるのかな〜ボクの御剣ちゃんは」
そして御剣と共に居るであろう彼を探して、巌徒はその歩みを室外へと進めていく。
背後で閉まった扉の音が、目の前に広がる長い廊下に響いた。