○ 贈り物

□神と赤と真
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視界に広がる真っ黒な闇。

ここが何処か、自分はどうなったのかすら分からない。

視線を彷徨わせても、これと言って飛び込んで来るものもない。

淡い記憶を辿れば、自分の身に起きた出来事がうっすらと夢のように湧き上がってきた。

現実か、それとも死後の世界なのか。

ただ広がる闇だけが辺りを取り囲んでいる。
伸ばした腕は空を切り、恐ろしいほどの静寂が辺りを支配していた。

鈍った思考回路は次第に一人の人物を記憶に蘇らせる。


「チヒロ…」


彼女はどうしただろう。
まだ駆け出しのコネコだった彼女は、自分が居なくなってからどうしただろうか。

そんなことを考えていると、赤い光がうっすらと見えはじめた。


『ようやくお目覚めかい?』


聞きなれた声。
見慣れた風貌。

目の前にいたのは紛れもない自分だった。










【神と赤と真】










やはり自分は死んだのだと、そう思った。

しかし身体の感覚はそのようなものとは違い現実味を帯びている。

まっすぐ見つめる先には、こちらを楽しそうに見ている自分が居る。


「オレは…死んじまったのかい?」


考えるまでもなく飛び出した言葉に、目の前の自分は独特の笑みを浮かべて見せた。


『神乃木荘龍は、死んじまったぜ?』

「…そうかい」

『ただ、アンタは生きている』

「…オレはアンタだ」

『違うな。アンタはオレじゃねぇ。オレは死んだんだ』

「クッ…悪い冗談、だぜ」


そう答えて気だるい身体をゆっくりと起こすと視界を何かが横切った。
指を伸ばしそれに触れてみると、自身の頭髪であることに気付く。
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