N-(G)宝物/捧げ物

□in the future
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「ね、英二?」

突然アンタが愛しくなって、名前を呼んでみる。

「なーに?」

別に、用はないのだけれど。

アンタは微笑みながら振り返ってくれる。
そんな瞬間が、俺は好きだ。
アンタが俺の小さな我が儘に応えてくれる、そんな瞬間が俺は好きだ。

だから、もう一回呼んでいい?



【in the future】



今日は土曜日。
珍しく部活の休日練習はなくて、俺は昨日の夜から英二の家に泊まりに来ている。
気をきかせてくれたのか、英二と同室のお兄さんは部屋を移動してくれた。
だから、当たり前のように腰が痛くて。
ベットから降りるのが億劫で、ずっとシーツにくるまっている。

ぼーっと左に倒れた熊の縫いぐるみを見ていると
トン、トン、トン、と階段をのぼる音が聞こえる。


たぶん英二だろう。


付き合って結構経つのに、彼が来るだけということでドキドキしてしまう俺はなんなのだろう。


コン、とドアがノックされた。

「リョーマ、入るよん」

自分の部屋なんだから、ノックなんていらないのに。
しかし英二は俺のことを1番に気遣ってくれる。
そんな優しさも、好きなんだけれど。

彼が入ってくると同時に、美味しそうな香りがふあっと部屋に広がる。

英二は白いシャツを胸元まで開け、ダメージジーンズをはいていた。
ドキンと胸がなる。かっこいいのだ、凄く。


「リョーマ、お腹すいてるでしょ?和食作ってきたから少し食べにゃい?」

「…英二が作ったの?」

「へへ、もちろん」

「…じゃ、食べる」


英二がテーブルに置いた昼食は、焼き魚にほうれん草の和え物、白いご飯に味噌汁。そして、茶碗蒸し。
どれも凄く綺麗で、凄く美味しそうで。
俺は目を輝かせた。

「リョーマ、かわいいにゃ〜」

「…なに、笑ってんの?」

不機嫌そうに問い掛ければ、「何でもないよん」と笑いながら英二は俺の髪をとく。
サラ…と指が通る度に、そこからジンジンと熱が上がる。

「リョーマ、腰痛いでしょ?この英二くんが食べさせてあげるから座っててね!」

「そんな恥ずかしいこと…!いいっすよ、自分で……ッツ!?」

立ち上がろうとした瞬間に、身体に電気が流れたような痛みが走った。

「ほら、ね?大人しく座ってなさいっ」

「…誰のせいだと思ってんの」


英二は聞かないふりをして、茶碗蒸しをスプーンで掬い、俺へと差し出した。




俺のために。

俺のためにベットを空けてくれて、
俺のためにご飯を作ってくれて、

俺のためにカッコイイ笑顔を向けてくれる。



急に、ひどく愛おしくなる。


「…ね、英二?」

「なーに?」

「…何でもない」

いつものヘアワックスの甘い香りに包まれた、アンタの振り向きざまの笑顔は
いい表せないくらいの幸せな顔で。

これからもそんなやり取りが出来たらいいな、とか思ってみたり。

だからもう一回だけ。


「ね、英二?」


口に入れた茶碗蒸しは、俺達の未来のように温かかった。

FIN
 
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