N-(G)宝物/捧げ物
□真実 は 氷 で隠そう
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寒さなんて感じないくらい、
ホントはアンタに抱きしめてほしい
でも、
そんな我が儘なんて面倒臭いだけ。
だから。
【 真実 は 氷 で 隠そう】
カサカサと、落ち葉が俺の足で踊っている。
もう、冬なんだ。
そう感じたのはつい最近で、だから当たり前のように防寒グッズは持っていなくて。
俺は芯まで冷えた両手に息を吹きかけながら、家路についていた。
あぁ、寒い。
何回思っただろう?
それなりに暖まった両手を、頬にピタッとくっつけてみる。
確かな、温もり。
冬になると人は他人の温もりを欲する―…と、英二先輩が言っていたのを思い出す。
もちろんあの人は、語尾にニャーとつけて笑いながら言っていた。
そんなことないと、馬鹿馬鹿しいと思っていたんだけど。
英二先輩の言っていた言葉は嘘じゃないのかな、とか考える。
俺の癖なのだ。
寒い時に手を、頬にくっつけるのは。
寒いから、なんて理由も当然だが、何故か落ち着かないのだ。
頬に、いや、手でも、何処でも何かの温もりを感じていないと。
家に居る時はカルピンがいる。
ふわふわの毛皮に包まれた、暖かなカルピンがいる。
でも、いつもは、どうだろう。
いつもは…。
あぁ、寒い。学校にいる時は、意外にもそう思わない。
……―。
思いあたる理由は一つだけ。
俺はびっくりしつつも、納得してみたり。
「英二先輩が、いつも抱き着いてくるからだ」
欝陶しいと思ってたはずの人物が、1番の温もりを俺に与えてくれていたのか。
なんだかおかしくて、くすっと笑ってみる。
下を向いていた目を上に上げれば、そこにはあの人がいた。
英二先輩。
「おっちび!寒いにゃー」
ぎゅう、と俺に飛び付くと、すりすりと猫のように頬をくっつけてくる。
「…なんで英二先輩、ここにいるんすか?」
ほわん、と心が暖かくなったのは英二先輩には秘密。
ふわり、と俺を安心とさせてくれたのは秘密。
ああ、もしかして俺、
恋してるのかも。
男同士とかさ、関係ないよね。
安心させてくれる人って、
周りにこの人しかいないでしょう?
俺、この人のこと、スキダ。
「ん?大石と待ち合わせしてるんだよん」
反射的に英二先輩の顔を覗き込めば、頬をほのかに赤くした英二先輩。
にぃ、と幸せそうに笑う英二先輩。
…このキモチ、なんなの?
「そうなんすか。じゃあ、俺はこれで」
いたたまれないような感情が溢れ出し、俺は背中を向けて小走りでその場から去った。
ずきずきと痛む心。
ずきずきと唸る俺の思考。
「ただの、気のせいか」
スキダと思ったのは、何かの間違い。
スキダと感じてしまったのは、あまりにも英二先輩が温かったから。
俺は再び両手を頬につけ、俯きながら家へと向かった。
俺の両手には、温かさなんてものはなく、感情もない絶対零度の氷のような、尖った感覚しかなかった。
だから。
俺は氷で自分を隠す。
いつかは麻痺して、
なにも感じなくなるだろうから。
自分の温もりも、
あの人の温もりも、
なんの温もりも、
モウ イラナイ
お願いだから、強がらせて。
FIN
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