N(G)-企画/季節/イベント

□乱れ咲き
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乱れ咲いた桜の花は、まるで君のよう。
 
 

乱れ咲き
 
 
 
気が付いたら既に外は夕焼けの赤い色に染まっていた。
僕は瞳を薄く開け、先程から寄り掛かっている桜の木を見上げる。
 
 
「まだ冬なのに…せっかちなんだね」
 
 
零れるように舞い落ちる桜の花びらを空中で掴もうとしてみる。
 
きゅ、と握ろうとしたら冷たい風と共に僕の手から逃げていった。
 
濃い、ピンク色。

今乱れ咲いて、春には咲けないのだろうか。
 
そんなことを考えながら、僕の鞄の中身を思い出す。

居心地悪そうに鞄の中に入っているのは、薄い水色の包装紙に包まれた誕生日プレゼント。

今日、越前の誕生日なのだ。しかし、僕は今ここに居て、こうして季節外れの桜を見上げている。

…この桜はまるで君のようだ。
溢れるばかりの花を咲かせ、それは怖いくらいの美しさで。

「結局、渡さずに1日が終わってしまうのかな…」

僕をそこから逃がすことなどするわけがなく。
 
でも、

「…帰ろうかな」



何かを拒んでいるように、狂い咲き、乱れ咲き、己の心など語らせるまいと、無心に立っている。
 
その花びらはまるで皆を虜にする薬のように、魅力的で、情熱的だ。
 

「これは、じゃあ君にあげるね」



僕は彼にあげるはずだったプレゼントの包装紙を開けた。

…――越前によく似合いそうな、黒いふわふわのマフラー。

僕は桜の木の幹に、マフラーをまいてあげた。
さらさらと、再び風が桜吹雪を起こさせた。

夕日が僕たちを照らす。


「…さよなら」

制服に付いた砂利を落とし、足を家路へと運ぶ。
そんな時、そんな時だった。

「不二先輩!」

「え…?」

彼、越前リョーマが僕の元へと走ってきたのだ。
越前が吐き出す息の白さが、なんとなく僕を現実へと引き戻した。

「越前、どうしたんだい?」

桜の花びらが彼を包む。

凄くきれいだ…

得意の微笑みで彼を見つめてみるけれど。
僕は、動揺を隠しきれているのだろうか。

「え、と…まだ不二先輩に言ってもらってなかったから…」

「え…?」

「…っ、今日俺誕生日なんすよ!」

ふわ、と強い風が吹き、僕は顔をしかめた。瞳をそっと開けたら、ピンク色の頬をした越前がいた。

それは桜の花びらのピンク色のせいではなく、冷たい冬の風のせいなんかじゃない、

確かな彼の気持ちによるものだと思った。


「越前…お誕生日おめでとう……」


いつか、捕まえてみたいな。
君の全てと、君の想い。


拒むことも出来ないくらい、今度は僕が狂い咲いてあげる…


僕は夕焼けをバックに舞い散る花びらを、ぎゅっと握り締めた。


周りの気温は低くて寒いけれど、僕の心の中は暖かい、そんな特別なクリスマスイヴだった。


FIN

→あとがき
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