フラン

□拝啓、貴方様
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ジルの腹の傷は寸分違わず俺が付けた、先程の先輩の言葉って考えてみるとなんか結構エロいなーと思いながら、フランは土だらけになった服を払う。
なんでこの人、自分と同じ顔した人間に傷を付けられるんだろう。


拝啓、貴方様。


「白蘭うざいけどとりあえずボスがあっさりジル殺してくれたしー。俺らももう退散しよーぜ」
「先輩ってサドだと思ってたけどマゾのほうでしたかー」
「・・・え、なんの話?」
薮から棒の暴言、聞き捨てならなかったのでぐるんと首を半回転させてフランを見る。なんでこんないつもにも増してぶすっとしてんのこいつ。え、何拗ねてんの?いきなり憎まれ口叩かれたこっちにさせろよ。「てか話遮るなって俺今まあまあ先輩らしい真っ当なこと言ったぜ?」とそんなフランの肩に両手を置くが、汚いものでも触るかのように俺の隊服の袖口を二本の指で摘んでその手を剥がすフラン。馴れ馴れしくさわんな堕王子の分際でと目で語る。口許は笑顔を心がけしかし隠しようもなく俺の眉間にシワが刻まれ、たが別に怖くないので無視なんつー顔でそっぽむきやがる後輩。なんでこんな舐められてる、俺?舐めるのは大好物だが逆は好かんよ。
「・・・あー、何。ジル?」
マゾ発言、心当たりがあるとすれば不肖の双子の兄貴に外ならなく、ようやく得心がいって剥がされた両手をポンと打ち鳴らし、その合掌のように合わせた手でフランの額に特攻。エメラルドグリーンの前髪を貫通して見事に突き刺さる。「げろっ」とデコを押さえ色気ない声で鳴く後輩。痛い爪切れよ、なんて聞こえてきそうな目で睨み上げられたが無視返し。
「てーめーふざけんなよーフラン」
「こっちの台詞なんですけどー」
「いーや正しく俺の台詞だね。俺とあいつは他人だっつの。同じ顔してよーが別の人間だ、あいつ殺そうとしたからってなんでマゾだよ!」
「同じ顔してるからですよー」
即座の反論むかつくな。マーモンにしてもサワダツナヨシんとこの奴にしても、霧ってみんなこうなのかと八つ当たり。減らず口ばかりじゃんかよ敬えよ先輩を。
「嫌いだもんあいつ」
「双子なんでしょー」
双子じゃないやつに諭したところで始まらないとは思うものの、双子だろうとなんだろうと、だ。
同じ顔だろうが違かろうが合わないもんは合わないし、嫌いなもんは嫌いだし死ねと思うもんは思うのだ。きっとまあ、お互いに。
「お前にはわからねえ」
肩を竦める。
押し黙るフラン。
あーやっぱ拗ねてる、俺自身がよくやるからわかるんだよね。馬ー鹿、フラン。ガキ気取んならもっとわかりやすく暴れたり怒鳴ればいいのに。すっきりすんだぜ。
「あいつをいつか殺すことが当時の生き甲斐だったんだ。果たせたと思って見逃したけど、きっちりボスが精算してくれたし」
しししボスサンクスーと気持ちありのままに笑ったが、釈然としていないらしいフランは首をがっくん横に傾げる。「なら今の生き甲斐ってなんですかー」
髪が流れ額が露出する。
それでもまだしぶとく目にかかる前髪を指で梳いてやり、それがどうやら予想外だったらしく、信じられない物をみるかのような目が至近距離に。俺もこんな優しい仕種、自分で予想外だけどまあいいじゃん。だって多分、可愛くない後輩が可愛い、なんて思ってしまったんだ。嫉妬めいた感情でこちらを傷つけようとする馬鹿なところとかが。
額に立てた爪の形に滲んだ血。
ベロンベロン舐めてやった。言ったろ、舐めんのは大好物!
「お前いじめることかな」今の生き甲斐。




拝啓、貴方様。
貴方の生きる理由になれたら、光栄です。なんて。
絶対言ってやらねーからな、堕王子め!

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