その他文章

□バサラ
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「好敵手だかなんだか所詮下賎な忍風情には理解できねえけどうちの大将唆すのやめてくんねっかなああんまりグラグラさせんでよあっちへぶれーこっちへぶれー、そんな頭に従う手足の気持ちってわかる俺様道具だけど道具として最低限の身なりは整え管理はしとかなきゃなんだよねつまり倒れない程度に飯は食わなきゃならんし寝なきゃならんし抜かなきゃならんのよ、それをなんだおたくらは自分達の世界でいちゃいちゃいちゃいちゃ、ハイハイこれは穿った主観ですけどね、しやがってうちの大将の価値観グルグルグルグル変えてくれやがってほんと勘弁してねぇほんと勘弁して、俺様片倉さんに嫌われてっけど片倉さんと一升瓶で三日三晩は語り続けられる自信があるよ語り尽くせない自信もあるよ要するに俺様独眼竜さんのせいでめっちゃ最近苦労してるから警告とお願いとを含めて愚痴りに来たんだけど何か文句ある?」
「Hum, Go home.」
「いつも通り意味わかんないけどひどく馬鹿にされてることだけはわかった何その目わかりやすく見下しやがって片目の癖にくっそむっかつく」

草の者風情が頭高ぇんだよと先程片倉小十郎に蹴られた背中が縄で戒められた背筋の硬直に伴いますます痛みを訴えてきて、奴が主の命に従い消えた障子戸を首を捻り睨み据えたが、勿論なんら事態は好転することもなく。ほとんど息継ぎせずに吐き出した要望の後訪れた耳にも痛い静寂の中、節くれだった独眼竜の指が支えるキセルの煙だけがゆらゆら動く光景の中にあると「出て行って寝ろなどと、しかし政宗様」「Ah〜小十郎お前ね、こんな三流忍者に奥州の竜が遅れをとるもんかよ下がってろって」「・・・まあそれもそうですね」と半刻前に目の前で行われた、割とあっさり折れた従者の普段の過保護ぶりを知っているだけに尚更業腹なやりとりを思い出してしまう。どうして不満を解消しようとして奥州くんだりまでやってきたというのにますます不満を溜めてしまうことになっているのか、もう不思議で仕方ない。奥州なんて秘境の地、どんだけ来るの面倒臭かったと思ってんだ。
嫌がらせにしか思えないほどに正円の、月明かりが差し込み灯要らずの夜だった。障子から漏れる月光に照らされた独眼竜の無表情が褥から浮かび上がる。寝るときくらい眼帯外せよ、どーでもいいけど。
元々忍の目に光など不要だが、必要以上に明るい闇夜というのは居心地が悪かった。縄で身体を縛られて居心地がいいもないが。
最後の一吸いをしたのち、隻眼の男が吸えなくなったキセルを落とした。ぼとり。畳から震動が伝わる。つまらん、と男は言った。特徴的な香りの煙がその口から昇る。

「・・・暇だな」
「はぁ?」
「帰れとは言ったが黙れとは言ってねえぜ。こんな夜更けに起こしやがって。俺も小十郎も善人じゃねぇからこのまま五体満足では帰せねえとはいうもののよ、睡眠邪魔した詫びとして、せめてなんか囀れ、真田の。自害しやすいように猿轡はしねえでやってんだから」

ぷっかーと肺の中の紫煙を全て吐き出しのたまった奥州筆頭伊達政宗様は尊大に片目を眇め、遊女に踊れと言うように、湯女に磨けと言うように、金を払ったんだから俺は神だと言う勘違い野郎の如く上から上から忍を見下げたあああむかつく。千一夜物語でも申しましょうかぁ?とおどけることさえ堪らなく嫌だ。いくら真田の大将が、こっちがどれだけ寝ろっつってもそれこそ夜更けだろうが夜明けだろうが構わずに雄叫びあげながら刀振って政宗殿政宗殿うっせぇくて俺まで寝不足にはなるわ息子に蓄積するモンは抜けねえわでひどく疲弊したからってわざわざこんなところまで出向いてしまったことを後悔している最中現在。まじで自害したろか。なんかもうそれもいい気がしてきたくらいだがいややっぱり嫌だ何が悲しくて最期に見た者がこの野郎だなんの罰だそれくらいならまだ蛙の交尾でも見せられたほうがよっぽどいいわ従って死ねねぇ。
独眼竜は寝台から襦袢を擦って立ち上がり、捨てたキセルを踏んでから存在に気づいたように拾い上げ、膝立ちに跪ずかされた状態な俺の真正面で止まる。物理的に見下ろされるーくーつーじょーくー。屈辱って言葉を使えるほど忍って矜持持ってないんだけど生きてきて初めて使えたこれは屈辱。語彙を体感した嬉しさなど微塵も無い。
うっすら笑んでいる表情までもを月は照らしていて陰影がついた野郎の顔面は考えたくもないが端麗でそれを露骨に見てしまったことに今本日何度目かの後悔に教われた。右目が潰れたなら左も潰れりゃよかったんだ、二目と見れぬ醜男であればよかったんだ。なんだこの、魅惑に満ちた歪んだ色気。本場のくのいちに比肩するかもしれない、なんて考えていよいよ駄目だ俺。
竜は裾を割って露出した足の先で器用に他人の顎を押し上げる。この礼儀作法が正しいと思ってんなら世の中を舐めているとしか思えない。軸足はぴくりともせず、余計に腹が立つ。

「Ha,・・・俺を楽しませることなんざ断固拒否ってツラだな真田の。そりゃそうか。何せ俺は敵方でありながらアンタの主人の価値観をえらく変えちまって夢中にさせてる張本人らしいからなあ。暑苦しいあいつのこった、一日でも早く武田に顔向け出来る男になるのだとか言って昼夜を問わずしこしこ鍛練やってんだろ」
「わお大正解。死ねっ」
「いいねえ。主人に付き従う道具であるアンタの言葉は揺るぎ無いから好きだぜ」
「そーかい、片想いごくろーさん」

軽い笑い声を立てられる。変な構造をしている頭の持ち主の笑いのつぼなど他国人で一介の道具にわかるわけないから一切表情筋を動かさないでやったら、なあ、と低い囁き。お目付け役が居なくて真田は大丈夫なのか?とまるでうちの大将を心配するようなことを。

「虎が竜を想ってあんな集中力最高の状態で真剣を振るってるってときに忍び込んでくる不審者は憐れだね」
「そっちじゃなくて、止める奴が居なくて体力は大丈夫なのかって聞いてんだが」
「は、それでちょっとは大人しくなってくれるとこっちも枕高くして寝られるんだけどね」
「いい関係だぜ。・・・で?」
「はん?」

でってなに、と尋ねる前にずる、と前歯に触れてきたのは無作法に顎を支えた竜の足の爪だった。
硬く整った爪がぬるりと口の中へと侵入してきたのだった、無作法もここに極まれり。うちの大将がこんなんなったら嫌だなあと心から思いながら、なんじゃこれと犯人を見上げる。

「で、・・・俺とはどんな関係になる?」

失笑。敵国の頂点と草だよ、いつまでもどこまでも。
歯、立てていいのかなあ爪を剥ぐくらいとも思ったが、にやにやと笑う野郎の顔が癪で変更。歯ではなく舌で迎え撃つ。
思考を改めて仕事用に切り替える。性技とて忍が嗜む能力の一つだ。無遠慮に入ってきた親指の裏を、指紋さえ感じ取れるほど執拗に舐め回し。唾液でますます滑りがよくなった舌を人差し指とのまたに這わす。かつては天を翔け地に落とされた竜の足は幼子のそれとは違い、いくつものまめを潰しては生み出すを繰り返して、すっかりかたくなっていた。
それ根気よく舐め、吸い、啄み、甘噛みし、撫でるを強弱をつけて速度を変えて繰り返し行っている内に、独眼竜の様子がおかしくなった。
いまや全ての指を代わる代わる唾液まみれにした。指といわずつちふまず、踵にまで勢力を伸ばすとどこかに性感帯でもあったのか、微かだが徐々に上がる息に今夜初めて優位に立ったことを感じ取り、手足の自由を奪われても尚の反撃だと竜を嘲る。ははっ、あの伊達政宗が! 卑小なる忍風情によって、喘がされているなんてさ!
超愉快たまらねぇなにこれ保存したいこの瞬間を切り取って!・・・なんて一瞬帰ってきた思考の中で爆笑していたら。

「へっ・・・やんじゃねえか、・・・礼だ」

独眼竜に拾ったキセルを股間に持ってこられる。ちょ、えーっ。薄暗闇の中忍でもないくせにどんな精度の目をしているのか的確に忍装束の隙間を縫って一番薄い布地の上から擽られ、不覚にも焦ってしまった。
腐っても忍なので性欲くらい制御出来るのだが真田の馬鹿大将によって夜の独奏会を邪魔されまくった俺に無器物越しのくせして妙に巧みな愛撫は非常に気が散って仕方が無い。どういうこった俺がまるで早漏みてーじゃないかよざけんなバリバリ遅漏じゃ超絶技巧と無尽体力を前に陥落しねぇ女はいまだかつて居なかったわ。は?なにそれで誘ってるつもり?と普段であったら冷笑できるのだが――怨むぞ熱血尻尾頭。

「んだよ・・・アンタも溜まってんじゃねえか。おっと、そういやさっきんなこと言ってたなぁ」
「んごごるんぶ!」
「・・・っ喋ってんじゃねえ」

テメェさっきは喋れっつったくせに。・・・あ、今のでなんかイイトコあたったのか。だがざまあみろ、とも言えなくてああこれが自爆かとまた後悔。ほんと何度目。
どこをどう見たって武将の身体、男の肉体をしていて俺が惹かれる部位など一個たりとも存在しない伊達政宗は、闇夜の中異様なほど艶めいていて、直視してしまったことを呪いたくなるほど――色の化身だった。刹那の間、抑制出来なくなった。ううわぁ忍になんてことしてくれてんだこのカス、と本気の動揺を隠し目で毒づくも喉の奥で呵々大笑する伊達の哄笑は曇らなかった。

「こちとら夢見が悪くてよぉ。急にSexしたくなって小十郎でも呼び出そうとしたんだが、なんの因果かあいつは起こす前にアンタを連れて来た。ま、たまにゃあ趣向を変えてこんなのも悪かねぇ・・・んっ」
「ぷはっ! いやっ、いやいや、えっなにそれ俺様超意味わかんないんだけどいや説明とか要らねーわいやまじでほんといいです」
「・・・五体満足で帰りたきゃあ、一晩閨の相手しろや、ってことだ」

吐き出した足を俺の額に乗せ容赦無く踏み、体重をかけて後方に倒した伊達。畳の上での海老反りを防ぐため反射的に自らも一番身体に負担がかからないよう体重移動させたら、上に伊達が跨がっていた。いまや伊達の襦袢の裾は完全に乱れてる。そういう主義なのかそれとも先程の言葉を借りるならすっかりやる気だったからかそこに、下着は無い。おいごるぁ淫乱んんん!!!

「男相手なら俺は入れられるほうが好きでね。アンタのDickさえくれりゃあ勝手に俺が動いて勝手に気持ち良くなって勝手に満足してやるから、まあ気にすんなって。・・・せっかく奥州くんだりまで来てくれたんだろ。仲良くしようぜ、佐助ちゃん」

至近距離から覗かれる一つしかない筈のその青い瞳は壮絶に濡れている癖にめちゃくちゃ枯渇していて淫靡で煽情的で果てしなく沸いたものはやはり殺意。主からの抹殺指令は受けていないというのに。忍を一時この野郎、人間に戻しやがった。この野郎やっぱ殺す突き殺すイき狂わす喘ぎ死なす。
本当はとっくに縄抜けくらい出来ていていつその細い首クナイで切り落としてやろうかと虎視眈々と狙っていたがそんな策略吹き飛んだ。言葉通り性技だけで殺すがっつんがっつん突いてひんひん言わせて大手をふるって甲斐に戻ってやる。腰に絡み付いてくる白い脚に、舌なめずりしたのは、だからそんな思索故だ。他にはねえよ、決まってんだろ。













勿論小十郎がすごすご引き下がっている訳無いのでこの辺でドクター(従者)ストップ入ります。
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