その他文章

□バサラ
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どうせなら幸村と再会したかったあのこてっこてな武士言葉が現代じゃ一体どんな感じになってんだろうかとかつてした空想のその答えを見てみたかったなのにああそれなのにそれなのにあんまりじゃないか現実とは、残念なものだ。佐助はがりがりとポッキーのプレッツェル部分を奥歯で噛んで7のカードを2枚場に捨てる。残り札はあと10枚足らず。
育った家庭環境において八切りという戦法の使用の是非が問われるが数の暴力とも言うべき多数決で認可された為8の札を同じ数だけ出しヘッと片頬で笑った男が一時場の支配者となる。色素の薄い髪色をしたその男に斜向かいに座る男が舌打ち一つした後言う。

「おい、チョー」
「長曽我部だっていつも言ってっけど、んな呼ばれ方するくれぇならもう元親でいい」
「チョーのほうが言いやすいだろうが、4文字よりもよぉ」
「うっわてめぇそろそろ折れろよな、そんなんだから敵多いんだよまじで。・・・んじゃ譲歩しちゃる、リピートアフタミー。チカ」
「えーダッセ」
「人の名前に向かってテメ」
「チョー、言い忘れてたが俺の小学校じゃ八切りは1Gameにつき1回までだった。って訳でこのTurnは諦めろ」
「遊戯王的に言うな。あとそんなルールはねぇよ」

長曽我部の手持ちのカードは6枚と3人の中で一番少なくなった、それに逸ったからか申し立てられた異議は「俺様なんてそもそも八切りっつールールも無かったよ」という、ポッキーを食べ終わって次の一本を取る間の佐助のコメントによって見送られることになった。多数決である。「ハイ残念」と右目で微笑んだ長曽我部が4を1枚出す。終盤に差し掛かったここでこんなカードが出るとは。「ここはおとなしく騙されとけよ」と5を出す左目のみ露出している男。こいつもか。
一つの机に対して眼帯男二人と三つ巴の形に並べた椅子に腰掛けてから15分は経った。早弁の結果昼休み終了はまだ30分後。どうしてこんな奴らとメシ食うんだろうと考えたことはもはや両手の指では足りないがこの二人がそれはそれはうつくしくジャムパンだのコロッケだのアジの開きだのミックスジュースだのを見た目から受ける豪快さやガサツさを感じさせずに食うからだと答えはわかっている。燃費の悪い身体にエネルギーを注ぎ込むときにも食物をみっともなく口から零すことや音を立てることなど論外だ、な二人ととる食事は同級生の中じゃ稀有でありいいか、と惰性を続ける結果を生む。多分相手方もそんな風に思ってるからこそ今更品の無い飯の食い方をするその他大勢の中には混ざらないのだろう。
捨てカードの山付近に立てられた赤いポッキーの箱に長曽我部の手が伸びる。手を使わずむしゃむしゃチョコレートを縮めてゆく体格のいい男に対して自分の身体はひょろひょろしてる。筋肉が付かないわけではないのだが。彼我は同じくバスケットボール部員である。
その中間くらいの体つきをした帰宅部員、右目眼帯の男が、「お前の番だぜ」とこっちを見て言う。そんなことはわかっている。思えばこいつと出会ったことで佐助は人生のほろ苦さを知ったのだった。


どうせ再会するなら幸村がよかった、と佐助が思ったのは独眼竜の名を天下に轟かせた武将伊達政宗の生まれ変わりに声をかけてしまってからだった。
中学3年生の春に転入してくるという変なことをしてのけたその少年に気づいた時あまりの懐かしさに思わず心踊ったのだ。珍しい時期の転校生というニュース性が薄まり一月前と比較すると一人で居ることが多くなったその少年を捕まえて、一気に全てを話してしまった。ねえ俺のこと覚えてる旦那、で始まったその切り出しに、不思議そうな顔をしていた伊達だったが片倉や奥州、幸村のことについてずらりと羅列したところではすっかり顔色が変わっていた。「Stop、」と上げた制止の右手の奥にある表情を、佐助は1年2ヶ月が経った今も忘れてはいない。

「まず俺はアンタの夫でねえからアンタに旦那と呼ばれる義理はねえし、」
「ってもずっと竜の旦那って呼んでたしね」
「Whatお前それまじで言ってんのなら痛」

前世では俺忍者だったんだぜとか、痛々しいと。
真顔で、というかやや青ざめた顔で言い放った伊達にハアア!?と思ったものだった。

「Ha,ばっかばかしい。中二の病を一年も引きずってんじゃねえぜ。アンタあれか俺と仲良くしたいのか。俺が魅力的なのはわかるがそんな電波でAttackしてくるのはApproach法としちゃ間違ってんぜ」
「すごい自意識過剰なところは何一つ変わってない」
「あとそんな悪目立ちオレンジな忍者が居るかよ」
「ナルトに謝れあんな金髪碧眼でついでにむちむちボインの忍だって居たんだからなあ!」
「Oh,おいろけの術か!?」「こいつ馬鹿かぁ!」

かすがでいいから会いたいですこいつでなければ誰でも良いですつかそっか平成の世でも俺様達はこんな関係ですかそっかそっか。仲良くなれねぇー。なれそうにねぇー。猛烈に声をかけてしまったことを後悔している佐助に、「第一よぉ、」と独眼の少年は学ランを翻しながら、言った。

「真田幸村と伊達政宗が同じ時代の人間な訳ねえだろ。妄想すんならReality追及しろ、そんなんじゃ出版社はGo Sign出しちゃあくれねぇぜ」


どうして出会ったのが伊達だったのだろう、と悔やんだ。幸村ならば、聞く耳持ってくれたかもしれない。でも、ずっと小さな頃から持っていたこの記憶が真実だと、そう信じていたものが伊達の断固の否定で揺らいでしまった。
俺本当にただのアタマオカシイ青春こじらせちゃった子?
結構人当たりよくて友達も多い方とか思ってたけど、本当は淋しかったのか?
違うとわかっているのだがそれに同意してくれる人間はいなくて、途方にくれた。
眼帯で独眼で他者をアンタと呼びルー語みたいな英語を遣い伊達政宗なんて名前をしているなんて、反則じゃないか。
懐かしさに手を出しても、仕方ないじゃないか。
前世の記憶などなくとも生きて行けるというのに泣きそうになりながら、笑顔を張り付け確かなもの欲しさに伊達に事あるごとに絡みに行った。
自分に自信があるからか笑顔で話を振る佐助を避けようともしない伊達はやはりあの時代の伊達のようだったが、どれほど佐助が巧みに自分の記憶を説明しようと頷くことはなかった。そうこうしている間に卒業式が来て、同じ学校の高校生になることがわかっていた佐助はそろそろ潮時かな、と口をつぐみただの平成生まれに戻る覚悟を決めていた。
しかし転機は訪れた。高校生になって長曽我部と出会ったのだ。
長曽我部って長曽我部じゃんと入学式で雄々しい髪と眼帯を見た瞬間にわかったものだけれどいいや同じてつは踏むまいと普通の学生として付き合うことを決めたのだが、長曽我部のほうから「あれっお前確か真田の忍じゃん!」などと嬉々と言ってきたのだから世の中わからない。
「だっ・・・だよねだよねやっぱそうだよね!?」と普段のキャラを投げ捨て長曽我部につかみ掛かった佐助にしてみれば自分の記憶が妄想でなかったことを保証してくれた恩人である。その後同じ部に入りそれなりに仲良くなった頃、長曽我部が伊達に猛攻撃を仕掛けていた。「伊達と真田が同時期な人間じゃないとかよくわからんけど実際そうだったんだよ!」と無茶苦茶強引な知性のかけらもない説得は昔の佐助と似たような結果になってしょげ返っていたが、長曽我部という「二人目」を得た佐助にもう怖いものはなかった。今までの鬱憤も込め、全力で伊達を口説きにかかった。
それでなんとか今、共にトランプに興じることができるようになったのである。あの独眼竜とトランプとか、と苦笑せざるをえないが。
数の暴力。1対1のときはお互いが対等で佐助のことを一刀両断した伊達も2対1では分が悪く、「わかったもういいアンタらの言いたいことは察した」とまで言わせるようになれた。佐助からすれば大進歩だ。ただ、まだしぶとく伊達が二人の言い分を認めた訳でなく、もしや二人は幼少時に面識がありその時したヒーローごっこならぬ武将ごっこのようなものをしたのではないか、とかあくまでこちらを疑うスタンスを崩してはいない。果ては輪廻転生とは、なんて眉唾な古い本を取り出してまで二人の言い分を切々と説く。ここまで頑なならいっそ信じてもらえずとももういいか、と佐助は諦めの領域に達している。とっくに放り出した長曽我部は純粋に、そんな伊達が面白いと言って付き合うようになっていた。
佐助が場にジョーカーを出す。4、5ときて突如切り札を出した佐助に二人は警戒したが次の一手、6の革命を出したら「うぎゃーッ」「ナメとんのかぁ!」と血気立った。素知らぬ顔で流し、最後に5のトリプルを残して一番に上がる。ちくしょー、と言いながら長曽我部が流す。長曽我部が出したのは2のペアだった。ご愁傷様。
1のペアで対応した伊達が、「なァ」と佐助に意趣返しをするかのようにまた話を蒸し返す。相変わらず信じていない癖に、無視することをしなくなったのは進歩といえるのだろうか。

「生まれ変わりって言うにゃあよ。なんで俺ら3人なんだよ、他の奴らどうした。あと俺もチカもアンタもストレート過ぎるんだって。なんで前世の名前今もそのまま名乗ってんだよ」
「そんなこと俺様に言われても。でも全員が同じ時代に生まれ変わることのほうが難、」
「アンタってばもう、いい歳した野郎が自分のことを俺様とか言ってるんじゃありません!」
「うわっオカンだ! 政子だ!」
「君らの前でしか言わねぇよ!」
「つーかよ俺、高校入るまで長曽我部元親なんて学校で習わなかったけどな」
「ああモッチーの周り馬鹿校出身のネット音痴ばっかだもんね、知る機会なかったよね。自慢できなかったよね。よかったねうちの学校がスポーツ推薦あって」
「よしその喧嘩買ったサッスー」
「この際だから言うが俺の伊達は今の養父の名前だ、中三までは別の苗字だったんだぜ。ちなみに小説家」
「えっそうなの。あ、だから変な本とか知識に詳しいんだ」
「へー。興味ねぇ」
「ってわけで俺は伊達政宗がむしろ、大っ嫌いだ。チカと違ってメジャー武将だし学校とか病院とかでさんざネタにされてよぉ」
「その喧嘩も買うぞコラ」
「まあまあ病院はともかく14、5の学生なんてまだまだ子どもばっかなんだから」
「だからそんな逆鱗に触れるようなことほざいてきたお前も嫌いだったわ、猿飛」

竜の逆鱗って言うもんねまた微妙に暗示的に聞こえるようなことを言いやがって、と新しいポッキーをつまんでくわえる前に、「今は?」とたずねてみた。どんな答えであってもこれからも大富豪するような関係であることは間違いないんだろうな、という一種の安心感は、佐助を大胆にしたのだった。

「今?」

言われた伊達はいつかのような不思議そうな顔。その顔が元に戻って、何を思ったか身を乗り出してくる。ん、顔近くね?と佐助が思ったら次の瞬間に口にくわえたポッキーをパキッとチョコレートの根本から持って行かれた。
そのまま一気にががががと前歯で咀嚼した伊達は残りのプレッツェル部分までもを持って行く。一瞬だけ、唇が触れ合った。な、ん、だ、と。
3日前の晩居酒屋で、酔った勢いのまま二人に熱烈なキスをかました長曽我部は何事もなかったかのように新しい袋をあけたが佐助は、そんな鼻をかんだら忘れそうな接吻とも言えない行為より何故か妙に気恥ずかしくなった。ファーストキスなんて乙女なことを言うのならそんなものは12歳の夏に終わっているし14歳には筆下ろしも済んでいたのだが伊達の前世が前世だけに、なのだろうか。自分とのあまり良好ではなかった関係が前提としてあるのに、それを揺らがせられてしまったから、だろうか。
いやいやまてまて長曽我部のアレをノーカウントにするならこれこそノーカウントだ。あっちと違って触れたのは、そう、しかも触れただけなのだ、そして一瞬だけなのだ。これこそキスなんかではない。ハハハ何すんの伊達ちゃんと流せばいいような事だろうがなのにどうして。

「・・・おいサッスー顔真っ赤キモい」
「今はそうねぇ、・・・まあ聞く耳くらいは持ってやろうって感じ?」

凶悪な顔で笑う伊達は、どう見たって独眼竜。
反則だ。
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