Gift

□ズルイ彼からのご褒美
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「梨紗! 一緒に帰ろ?」

HRも終わって帰る準備をしていると、目の前に大好きな双子の姉。
そして隣には、姉の大好きな人がいる。
今から放課後デートでもすればいいのに、私に遠慮しているのか、このカップルは毎日のように私と三人で帰ろうとする。
私だって子どもじゃないんだから、一人で帰れるし、二人の邪魔をしたくない。

「私は用事があるから、先に帰っていいよ」
「え、でも……」
「今日やっと期末試験が終わったから、私は今まで我慢してた買い物に行きたいの」
「い、一緒に行けばいいじゃない」
「丹羽くんはどうするのよ」

姉――梨紅の隣で苦笑していた丹羽くんは「僕のことは気にしないで……」とか言っている。
もう、そんなんだからいつまで経っても進展がないのよ!

「一人で行きたいの。だから、二人は先に帰って」
「梨紗……」
「梨紅さん。原田さんがそう言ってるんだし、行こう?」
「う、うん」

丹羽くんに言われて、ようやく梨紅は丹羽くんと教室を出た。
今日の丹羽くんは空気読めてる!
いや、実は梨紅と二人っきりで帰りたかったのかもしれない。
試験中はずっと三人で帰ってたら久々だもんね。
それに、私だってたまには一人で帰りたい。
二人と帰ると惚気話ばっかりだもん。

「ふぅ……。帰ろ」

荷物を全て鞄に入れ終え、席を立った。
教室を出ると、二人の姿は既になかった。
大方、一緒に帰っているところを冷やかすクラスメイト(主に冴原くんとか)から逃げたんだろう。
高校生になった今でも弄られるなんて、どれだけ初(うぶ)なの。

でも、そんな二人が羨ましいと思ったことがある。
だって、ずっと一緒にいられるんだもん。
私は、どんなに望んでも隣に並ぶことができない。
あの時もそうだった。
どんなにどんなに追いかけても、あの人の隣には並べなかった。
そして今も、隣に並べない。
きっと彼は、私を迎えに来て一緒に帰るなんてしないと思う。

「それはどういう意味かい?」
「ッ!?」

急に近くから聞こえてきた声。
この声は間違いなく――

「ひ、日渡くん! あれ、何でいるの!?」
「たまには迎えに行こうかと思ってね」

校門近くの壁に寄り掛かった姿で、日渡くんは立っていた。
日渡くんはアメリカで大学まで修了しているから、高校には通っていない。
だから、彼がこんな所にいるのはイレギュラーなのだ。
東野中に通っていた女の子たちは「日渡く〜ん!」とか手を振ったりしてるし、他中の女の子たちは頬を赤く染めながら見てる。
……確かに恰好良いけど、そんなに見ないでほしい。
日渡くんは、日渡くんは――

「梨紗さん?」
「ひ、日渡くんが迎えに来るなんて、あ、明日雪とか降るんじゃない?」

いきなり名前を呼ばれて、私は慌てて話してしまった。
なんだろう、こんなの私じゃない。
なんて可愛くない話し方……。
日渡くんはこういうことに鈍感だから、もっと素直にならなきゃいけないのに!
案の定、彼は首を傾げた。

「来ない方がよかったか?」
「……ううん。来てくれてありがと! 帰ろ」

私は無理矢理笑った。
大丈夫……日渡くんは鈍感だから、きっと気付かない。

先に歩き始めた私の隣に、日渡くんは少し早く歩いただけで追いついた。
さり気なく歩道側を歩く彼は、中学を卒業してから身長が凄く伸びた。
私とあまり変わらない位置にあった顔は、今では私が少し見上げないと見えない。
男の子ってズルイよね。
女の子を置いて、どんどん成長しちゃうんだもん。
いいなぁ、私ももっと成長したい。
もっと可愛く、素直に言いたい。
ホントは、時折触れそうになる日渡くんの左手と、自分の右手を繋ぎたいって。
だって、最近ずっと試験勉強であまり会えなかった。
日渡くんは勉強を教えてくれるって言ってくれたけど、きっと私が日渡くんを気にして勉強に集中できないから、断ってしまった。
うぅ〜、なんであの時断ったのよ、私!

「梨紗さん」
「ッ!?」

名前を急に呼ばれて、思わず肩が跳ねた。
そうだった、一緒に帰ってるんだった!
話もしないなんて、勿体ない!

「な、何?」

日渡くんは、黙って左手を私に差し出した。
私は意味が解らなくて、首を傾げる。
すると、日渡くんは綺麗な微笑を見せてくれた。

「手、繋ぎたいんじゃないか?」
「なッ!? じ、自意識過剰よ!」

日渡くんに本心を当てられて、私は真っ赤になった顔を両手で隠した。
ほ、頬が熱い……!
何でバレたの!?
そりゃあ日渡くんの左手をちらちら見てたけど!
まさかバレるなんて!!

私が心中でキャーキャー言いながら、指の隙間から日渡くんを覗き見てみる。
日渡くんは驚いた感じで目を丸くしていた。
あ、この表情は結構レアな表情かも。
でも、その表情もあっというまで、日渡くんはさっきよりも優しく微笑んだ。
すっごく甘い、優しい微笑み。

「いや、君が繋ぎたいんじゃない。俺が繋ぎたいんだ」
「ッ!?」

やっぱり、日渡くんはズルイ。
私が言えないことをさらっと言いのけて、そして私に甘いんだ。

私は、自分の右手を日渡くんの左手にそっと乗せた。
私ばっかり甘えてちゃダメだ。
私だって、素直になるんだもん……!

「……私も、日渡くんと繋ぎたい」

い、言えた……!
私の素直な言葉に、日渡くんは何を思うのだろう。
ドキドキしながら、彼の言葉を待つ。
でも、日渡くんは何も言わない。
何も言わずに、日渡くんは私の手の甲に軽く口付けを落とした。
……えぇ!?

「試験、お疲れさま。頑張ったご褒美に、また迎えに来るよ」
「う、うん! 待ってる!」

優しく握り締められた右手が、真っ赤になった頬よりも熱を持っているように感じた。




ズルイ彼からのご褒美
(それは甘い甘い微笑みでした)




「そうだ。正門前だと嫌だろうから、これからは裏門で待つよ」
「え? どうして嫌って判るの?」
「正門前で、かなり嫌な顔をしていた」
「(ば、バレてる……)」
「でも、嫉妬してくれる梨紗さんは可愛い。やっぱり正門に――」
「う、裏門でお願いしますー!!」




*fin*




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