other

□本心の問題
1ページ/1ページ

昨日は徹夜で、今日は外回り。そんな体を酷使した状態で酒なんか飲むもんじゃない。…そう、飲むもんじゃなかった。

「うぅ、気持ち悪い……」

「大丈夫ですか?名前さん」

私の背中を摩りながら眉をハノ字にしてこちらを心配そうに見てくる琲世くんにつくづく申し訳なく思いながら、先ほど彼が持ってきてくれた。水の入ったグラスをチビチビ飲む。
グワングワンとする頭を抱え、私は何故こんなことになってしまったのか今日の出来事を頭の中で反芻した。


ーーー平子班が担当する連日続いた喰種調査がひと段落し、朝から夜まで続いた資料漁りからやっと解放されると思った矢先、真戸班率いる佐々木一等がまとめるQs班が偶然にもSSレートの喰種と遭遇したようで 急遽平子班が応援に駆けつける事になったのだ。一触即発な戦いの末その喰種を捕獲することができ、新たな捜査の情報源になることができた。
平子班は大きな功績を残せたことで、連日続いた仕事の達成感もあり、珍しく皆揃って飲みに行こうと言うことになった。
そして、私にとってそれが運の尽きになってしまったのだ。


「そんな疲れた状態でお酒なんか飲んだら、逆にお酒に飲まれちゃいますよ」

「…ほんと、おっしゃる通りで」

琲世くんの忠告は時すでに遅しで、私は既に身をもって学ぶことになった。


飲みにお店に入った平子班は、皆愉快にどんちゃん騒ぎ。になんて事にはならず、まぁ多少は愉快に酒を飲み交わしていた。 私達は喰種捜査官、いつ何時喰種と対峙するかもしれない状況下でベロンベロンになるまで飲むなんてありえない。皆それぞれ晩酌程度に嗜み、久しぶりの仲間との至福を楽しんでいた。それぞれ、今の仕事の様子や自分たちの意思の示し合いなど聞いていてお互い熱くなるような話が盛り上がり、徐々にお酒が回ったことでほろ酔い気味に家族のことを話す物も出てきたところで、どういう訳か平子班唯一の女捜査官である私に話の矢面が向いた。

「ところで苗字一等は彼氏とかいるのかい?」
「えっ、私ですか?いるわけないじゃないですか」
「…お前なぁ仕事熱心なのは良いが、自分のことも大切にしろよぉ。親御さん心配してんじゃねぇか?」
「なっ、ほっといて下さいよ」

私より一回りほど歳上の先輩たちが、親心的なアレからか私から全くと言っていいほど男の気配がしてこないことに心配してくる。

「そうですよねー。あ、でも苗字って実は結構人気あるから彼氏なんて選り取りみどりでしょ」
「だまらっしゃい伊藤」
「え、褒めたのに⁉︎」

ほろ酔い筆頭の倉元にピシャリと言いつけ、私も酒をちょいちょいと口に運ぶ。 皆はそれなりに飲んでるようだがそれは彼らが酒に強い故だ。私みたいな酒に弱い奴があんなペースで飲めるわけがなく自分の体と相談しながらちょっとづつ飲んで行っていると、末弟的な存在の黒磐くん通称:武神が爆弾発言を投下した。

「苗字一等は好きな方がいらっしゃるんですか?」
「っ、ごほ!ゴホッ!」

対して口に含んでなかったがそれが裏目に出て逆に大きく咽せてしまった。
そんな私の様子を見て「お、何だ?いるのか?」とニヤニヤ顏で聞いてくる先輩達にとても興味深々にこちらを見てくる伊藤。

「っ…、何でそうなるんですか!」
「おぉ?ムキになるのが逆に怪しいな」

そのまま追求してくる先輩型に内心焦る私は無意識に口に運ぶ酒の回数を増やしていた。

「…だいたい私には恋愛に鬱つを抜かしている暇はありません。今は仕事のことだけを考えたいんです」

「またまたぁ、お前だって女なんだから気になる男の1人くらいいるでしょー?、俺とか」
「黙れ伊藤」

戯言を言う伊藤に目をかっぴらいて渾身の睨みを効かせるとシュンと肩を縮こませ大人しくなった。


「じゃあ武神とかどうだ苗字」
「!」
「もう、黒磐くんが困ってます、先輩」

なんやかんやと話がどんどん膨らみ、あいつはどうだ、こいつはどうだ、最終的には俺の甥っ子に会ってみろよと見合い的な方向に持っていかれそうになり私の堪忍袋の尾も切れた。

バン‼︎っと勢いよくテーブルを叩きグラスに残っていた酒を一気に飲み干す。「お、おい」と私の酒の弱さを知ってて声をかけてくれる先輩もいたが、もう止まれない。酒を飲み干しまたテーブルに強く置く。

「いい加減にして下さい! これ以上この話をするんでしたらセクハラで訴えますよ‼︎」

私の気迫に押されたのか、漸く話は終止符を迎え仕切り直して少し経ってから解散することになった。

「悪かったな苗字」
「良いですよ、気にしないで下さい。」

帰り際に先輩たちには謝ってもらえ、送ろうか?という誘いもあったが帰る方向が一緒の人が誰もいなく、私の意識もはっきりしていた為、丁重に断らせて貰った。

先輩達と離れ、夜道を1人歩く。夜風を少し寒く感じながら足を進めていくと、体に違和感を感じてきた。
しっかりと一歩を踏みしめていた足に上手く力が入らなくなり、頭がグワングワンと揺れている。 ヤバイ。壁に片手を付き足を止めた。これはヤバイぞ。
まさかの酔いが一拍遅れでやって来た。
あれ、疲れてる時って遅れて酔ってくるもんなの⁇ そんなことを思ってるいると、ここにきて昨日徹夜した分の睡魔も襲ってくる。

頭の中は冷静ながらも、名前はその場にしゃがみ込んた。

この状況では何があっても何もできないことを急激に理解し、あの時断るんじゃなかったと激しく後悔する。

家まではまだまだかかることを考え、さて一体これからどうしようかと悩んでいるところに、
名前の肩にポンと手が乗った。

「きゃぁっ‼︎」
「うわぁ!」

急いで名前は振り向くと、とたんに心底安堵し、胸が焦がれる。

「名前さん、こんなところでどうしたんですか?」

それは帰宅途中の琲世くんだった。





ーーーそして、現在私はQs班の住まうシャトーにてお互いダイニングのソファーに座り、琲世くんに介抱して貰っている次第だ。

「それは、なんと言うか、災難でしたねぇ」

こんなことになった経緯を介抱してくれている人に話さない訳にもいかず、とてつもない恥ずかしさを耐えて琲世くんに説明した。

「でも、それだけ名前さんのこと可愛がってるってことですよ」

笑顔でそう言って頭をポンポンと撫でてくる彼に胸がキュウっと締め付けられる。

「そ、それはそれで嬉しいけど、やっぱりちょっと複雑です」

琲世くんとは同じ一等階級しかもまさかの同い年という共通点から仲良くなった。彼はとても勤勉家で人を暖かくする能力を持っている。自分よりも他人を優先し、辛くても悲しくてもそれは絶対に周りには見せない。そんなところが彼の魅力。そして、私はそんな彼のことがーーー。

「というか、女の人がこんな時間に1人で帰ろうなんてするのがまず間違ってます」

「…いやでも私も一応喰種捜査官ですし、」

「喰種捜査官と言っても、こんなになってしまったら元も子もないじゃないですかー」

それにはグウの音も出ない。腕を組み説教モードに入っている琲世くんに身が縮こまる思いだが、結局は自業自得だというのに私の負けん気がついつい主張してしまった。

「確かにこんな状態になってしまったのは誤算だったけど素面だったら、私だって自分の身くらい自分で守れますっ」

私だって毎日鍛えてるんだから!っと拳に力を入れるようにするが、琲世くんに目を向けるとそんな強気は一気に消える。

「へ〜……」

なんの抑揚もなくそう言った彼の目は、怒っているように見えて肩が跳ねた。あ、地雷踏んだ。

「そっかぁ、じゃあ証明してもらわないと」
「え」

そこ言葉と同時に彼の顔が目の前まで迫り私の口を塞いだ。

「ぅんっ‼︎」

何度も何度も角度を変えてキスされる。こんな状況になっている自分が、私にキスをする琲世くんが、最初何が起きてるのか分からなかった。

彼のキスから顔を背け、降ってくる唇から逃げるが、そのままソファーに押し倒された。

「ちょっ、琲世くん⁉︎」
「ほら、抵抗しないと」

そう言って今度はさっきよりも深く口付けてくる。

「ンっ、ぅん!」

琲世くん舌が私の舌を絡めとり、ゆっくりと破裂をなぞる。ゾクゾクとする感覚に身を震わせていると混ざり合った唾液を私に送り込んできた。重力のせいでそれを拒むことなんか出来ず、飲み込もうとするが飲み切れなかった分が口の端から垂れる。
執拗に舌を追ってきて、離さないとばかりに強く吸われる。息が苦しくて、瞳が生理的な涙で滲んできた。強く瞑っていた目をゆっくりと開けるとこちらを見つめる琲世くんの目が合った。流されてはいけないと、やっとのことで彼の胸を強く押すと、彼の唇は簡単に離れる。離れた唇から名残惜しげに糸を引くそれを視界に入れると一気に羞恥が込み上げてきた。
お互いの荒い息が唇を掠める。

「はい、せっくん、…何で」

こんなことするの?いきなりの展開にやはり頭が付いていかず、むしろオーバーヒートを起こしそうだ。息も絶え絶えにその旨を伝えようとするが、彼の少し赤らんだ頬に濡れた唇、熱のこもった視線に言葉が詰まる。琲世くんは私の様子を見てその口角を上げた。

「まだまだ足りない」

彼の胸を押していた手を取り、またゼロ距離キスの雨が降る。取られた手は指を絡めとられ恋人繋ぎのように握られた。彼はまた舌を入れようとしてくるが、もうその手には乗らないぞと強く口を閉じた。
また至近距離で私たちの視線が混じり合う。彼の目は口を開けるよう要求しているようだ、が、抵抗する様に言ったのはあなたでしょ!っと私も負けじと訴える。すると、彼の思わぬ手が。

「ふぁっ!」

彼が私の脇腹を撫でてきたのだ。急なことに声を上げ驚くのと一緒に開いてしまった口、待ってましたと言わんばかりに琲世くんの舌が私の舌を捕まえてくる。
深いキスと一緒に身体を弄る彼の手。身体がどんどん熱くなり、理性が溶かされていくみたいだ。
空いている片手で彼のシャツを握った。
ダメだ、抵抗出来ない。
だってーーー。

完全に身を委ねてしまった私の様子を感じ、琲世くんは唇を離した。

「分かりましたか?、貴女は一喰種捜査官と言えども女性なんです。本気で迫られたら何もできませんよ」

こんなトロトロになっちゃってっと、
私の頬を撫でてくる。

「…だって、」

まだ反抗しようとする私に「まだ言うんですか?」とまた顔を近づける彼に私は続けた。

「だって、琲世くんだから…」

その言葉に目を開く彼。
そんな彼の手に私は頬をするり寄せて言った。

「好き、です。琲世くん」





ーーーブワッ

まるでそう効果音がつきそうなほど、琲世くんの顔が真っ赤になった。

「え?」

さっきまでと様子がガラリと変わった彼にこちらがポカンとしていると、自分がどんな顔をしているのか気付いたのかハッと手で口元を隠す。私に覆い被さっていた体制を直すと、今度は両手で顔を覆い頭垂れた。
私もソファーから見を起こし彼の態度の豹変にどぎまぎする。「…琲世くん?」声をかけると「…実はね、」琲世くんは静かに話し出した。

「名前さんは僕のことなんて全然気にしてないんだと思ってた」
「え?」

そう言った彼は相変わらず顔をふいている。ポツポツと紡ぐ言葉は、あまり表に出さない彼の本音なのだろう。と思い私は何それを真っ直ぐ聞いた。

「なんか名前さん無防備だし、僕のあとすぐに着いて来ちゃうし、僕のこと男として見てないのかなぁって思ったり」

「ご、ごめんなさい…」
それは私の考えなしでした………っ。

「僕のこと意識させたいって思ったらこんなことになっちゃって、」

「想像以上に柔らかいし、名前さん凄い可愛いし、ちょっと意識させるつもりが歯止めがきかなくなった」

彼の漏れ出る本音にドキドキと胸が高鳴る。

「…あー、僕、カッコ悪っ」

そんな事ないと言おうとする名前に琲世の言葉が続く。

「好きな子虐めて、挙句無理やりなことして、女の子の方から言わせちゃって」

そして、琲世くんはしっかりとこちらに顔を向けて私の両手を取った。

「好きだよ。名前」

彼の言葉に涙が出そうになる。
琲世くんは微笑むと私の顔を両手で覆った。私は彼の両手に自分の手を重ね、2人でまるで何時間も見つめ合っているような感覚に陥る。

「大好きよ」

そして、今度は恋人のキスをした。











fin.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ