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□心の内
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「芳村さん、仕入れ行ってきます」

「あぁ、名前ちゃんその前に君に会って欲しい人がいるんだ」

「ど、どうも金木研です…」

「…名前です」

「そうだ、カネキくんも名前と一緒に行くと良い」

「「え」」



カネキとの出会いは私が18になった年だった。なんでも、元は人間だったようで、苦しみもがいていたところを芳村さんに拾われたらしい。




「……それ、何読んでんの?」

「えっ、あ、これ?」

「そう」

「えっと、高槻泉の"逆周りの砂時計"って本なんだけど……」

「…………どんな話?」




カネキは本が好きみたいで、いろんな話を聞いた、本はそんなに得意じゃないんだがカネキは何冊も本を貸してくれた。





「名前ちゃんてなんか怖いとこもあるけど根は素直だよね」

「いきなりなにさ」

「いや、最近よく話すようになったからなんか嬉しくて」

「…カネキはバカ正直だよね」

「え、バカは余計じゃない!?」

「そんなだといつか騙されるよ、あ、もう騙されたか」

「…#name1#ちゃんって無意識にそういうこと言うよね……」

「無意識じゃない、わざと」

「そんなとこで素直にならないで」

「ていうか、名前ちゃんって呼ばないでよ」

「え"」

「同い年なんだから普通に名前で良い」

「……名前」


ニヤニヤ笑うカネキに無性に腹が立ったので、その後一発おみまいしてやった。




月日が流れ、ーーさんが死に
錦という男があんていくに訪れ、
カネキがアオギリに拉致された。

皆でカネキを助けに行くも、
戻ってきたカネキはもう今までの"カネキ"ではなかった。





「僕はあんていくを出ていくよ」


皆にそう言ったカネキは本当に別人のようだった。
そこで彼に付いて行く者と付いて行かない者たちに別れる。

「……カネキ、あたしもーーー」
「トウカちゃん、もうそろそろ受験でしょ?」


カネキはトウカを切り離した。

カネキの判断は分かる。
トウカはそちらに行くべきじゃない。
この子は喰種とは離れた世界にいるべきだ。
それが彼女にとっての幸せ。

けど、
けれど、
私は?






「…………名前は何も言わないんだね」




カネキに付いて行く者とあんていくに残る者たちの去り際。

ずっとカネキを見つめていた私に痺れを切らしたのか向こうから声をかけれる。



「……どうして欲しい?」

「え?」

「カネキは私にどうして欲しい?」

「っ……」


一瞬息を飲み押し黙るカネキ。
ただそれを静かに見つめる私。


「僕は……君には、あんていくに残っていて、欲しい……」

目を伏せていて、伸びた前髪でこちらからではカネキの顔は見えなかった。

私は地面を一歩一歩踏みしめカネキに歩み寄る。
周りにはもう、私とカネキしか居なかった。

二人の距離は30センチほどに狭まり、カネキの腕を緩く掴み、彼の顔を除き込んだ。

「ねぇ…私の目を見てよ」

ゆっくりと交わる私たちの視線。

「ホントのこと、言って」

コツンと重なりあう額。
月明かりしかないこの場では少し暗いが、カネキの顔を見るには十分なようだ。

「どうして欲しい?」

掴んでいた腕が上昇し、私の背中をゆっくり撫でると今度は力強く掻き抱いた。



「……ホントは、僕の側にいて欲しい…」



少し掠れたカネキの声が鼓膜を震わす。
その言葉に自然と笑みが零れた。




「何があっても離れる気なんてサラサラ無いわよ」





彼の背中に腕を周り抱き締め返す。
絶対離れない、彼の耳元でそう囁けば尚強くなる腕の力。


離れないし、
離さない、

死が二人を分かつまで

絶対に。









 

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