同志向け長編

□ばかやろー、大好きだ。
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「ここでやめたって怒るだろ?」

 俺の反抗的な態度に少しだけ興が乗ったらしい。口角を上げた晃に乱暴に身体をひっくり返され、後ろから抱きすくめられて。Tシャツの上からやらしく両胸の突起をいじられる。好き勝手されて腹が立つのに、容赦ない責めに身悶えて、アホみたいに声を上げる事しかできない。

「やっ、ぁ、あんっ」
「あー、ムカつく。何であんなガキなんか……」

 こんなにそばにいるのに、こんな事してんのに、晃は俺の事なんか考えてない。思った通り、凹んでる原因はまた恋愛沙汰か。どうやら狙ってた男を誰かにとられたらしい。情けないところをさらけ出してくれてる、なんて喜べない。自分がこいつの眼中にない事を思い知らされて、辛いだけだ。

「は、何の話、だよ……っ」

 それでも何もわかんないフリをして聞いてやる。吐き出したいから、こんな雨の中俺のとこに来たんだろうし。晃の愚痴なら聞いてもいいって人間、たくさんいるだろうけど。その中からまた俺を選んでくれるように。

「……狙ってた同僚、生徒にとられた」

 けど悪戯の手を止めて告げられた晃の返答に、さすがに耳を疑った。同僚って事は、晃と同じ、高校生相手の塾講師なわけで。生徒とか、下手したら2ケタ違いだろ。つーかこいつ、ついに職場でも盛りやがったのか。こんなやつが人にものを教える立場なんて、世も末だ。

「ざまぁ」
「……何でお前はそう、可愛げがねーの」

 晃のため息が俺の首筋に当たる。可愛げがあったら俺の事しか考えないようになるのかよ。従順なやつには飽きるくせに。俺だって確証もなく反抗してるわけじゃない。こいつに言い寄られて熱中されて、よろめいたら冷められて。そうやって何人も泣かされてるの、知ってるから。
 こんな最低な男にひっかかるのがバカなんだ。辛いのも泣きたくなるのも自業自得。

「ヤサシー言葉が欲しいなら他んとこ行けよ」
「俺はお前に慰めてもらいたいんだよ」

 言葉とともに強く抱き寄せられて、心が甘く揺さぶられる。腕の中にいるのが俺じゃなくても、こいつは同じ事するってわかってるのに。もしかして、こいつも俺の事を特別な存在として見てくれてんじゃないかって。でもそんな甘ったれた錯覚が、長続きするわけもない。

「慰めろよ、身体で」
「っ、ふざけ、」

 罵声を浴びせる事すら許されず、強引に顔を横向かされ、唇を塞がれる。晃の手のひらが火照った俺の身体をゆっくりと降下して、股間に滑り込む。ストレス発散の道具みたいに扱われて、反応なんてしたくないのに。わざと焦らしてるって丸わかりの、服の上からの愛撫に腰が揺れる。

「……っ、趣味わりー、な」
「何の事だ?」

 睨みつけても、晃は飄々としらばっくれる。緩慢な手の動きは止めないまま。俺からねだるのを待ってるんだろう、ほんとに悪趣味。晃に触ってほしくてうずく身体にむち打って、腕の中から逃れようともがく。

「も、触んなっ」
「いいかげん、素直になれって」

 暴れる俺を簡単に抑え込んだ晃に、ソファに押し倒された。Tシャツめくられて、はいてたジャージを下着もろとも片足だけ脱がされて。それだけでもう、準備万端。今さら慣らす必要なんてないくらい、俺の身体は晃に慣らされてる。でも心は反比例するようにささくれていく。
 素直になれってなんだよ。こんな風にしか接せないようにしてんのはお前じゃねーか。俺だって、晃に好きだって言って、言われて、優しく抱かれたい。でもそんなの無理だ。面倒な感情が入らない関係だから続いてるんだって、何度自分に言い聞かせてきたと思ってんだよ。

「入れるぞ」
「ぁ、んっ、―――っ!」

 形式化された言葉とともに、馬鹿でかい晃のが俺の中に入り込んでくる。晃にすがりつく事なんて出来ず、顔をそむけながらソファに爪を立てて衝撃に耐えた。どんなに慣れても、受け入れる時はやっぱりしんどい。けど、晃で満たされていく感覚はたまらなくて。全部入ってビクビク痙攣する俺を見て、晃が口角を上げる。

「ほんっとやらしーよな」
「は、ぁ……っ、うっせぇ」
「褒め言葉だって」

 嘘つけ。仮に晃が心の底からそう思ってたとしても、それはセフレとして褒めてるって事で。そんなの俺にとっては褒め言葉でも何でもない。憎らしくて仕方ない。俺を傷つけてる事に無自覚な晃も、そんな晃を求めてしまう俺も。
 
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