ノーマル短編集

□ライトさま参加まとめ
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小説企画ライト様参加。お題「一歩」
『努力のゆくえ』

「あっこちゃんは彼氏いない歴どのくらいー?」
「えー? 半年くらい、かな」

 恋愛ホルモンの分泌が著しく低下している期間、という意味では嘘はついてない。合コンにおいて、『彼氏いた事ありません』なんて禁句だ。合コンじゃなくても禁句だ。私には欠陥があります、だからモテません、なんて言っているようなもの。

「じゃあ前の彼氏とは何で別れたの?」
「んー、彼が転勤しちゃって。ついていく事も考えたんですけど……」

 ついていけるならついて行きたかったんだけど、さすがに赤の他人ではついて行けなかった。彼、とは半年前まで片想いしていた他部署の男の人の事だ。
 好きだった、とても。でも自分から告白する勇気はなくて。それなら自分を磨いて、声をかけてもらおう。そう思って努力してもいつも空回りばかり。たとえ勇気を振り絞っても、告げられる言葉は『俺が居なくても』とか、『高嶺の花』とか、『俺じゃ釣り合わない』とか……。合コンだって連絡先を交換しても、2、3度連絡を取ってそれで終わり。

「あー、あっこちゃん仕事できそうだもんねー」
「そんな事ないですよー。その彼とは、そういう縁だったんだと思います」

 ちょっとさびしげに笑ってみせれば、確かな手ごたえは感じるのに。友達づてに聞いたところによれば、やっぱり私はお高く見えるみたいで。『服とかに超金かかりそう』、『美人だけどキツそう』、そんな感想しかいただけない。
 休日は部屋で倒れ込んでるから、服は全部通販でほとんどセール品なのに。仕事ができると思われたいし、合コンでだって気を引きたいから頑張ってお化粧してるだけなのに。

 あぁ、今日も何となくダメっぽいな……そう思いながら男性陣をぼんやり見つめたら、ふいに端に座っている人と目が合った。何か、地味って言ったら失礼だけど、妙に落ち着いた……合コンの場にはふさわしくない人。とりあえず微笑んでおいたけれど、彼はすぐに視線をそらしてしまった。



「お疲れー! あとでLINEするねー!」
「はーい!」

 2次会まで粘ったけれど、やっと解放されたという気持ちが強かった。気づいてはいるんだ、こういうの向いてないって。気落ちが足元に来たのか、駅に向かう集団からちょっと遅れてしまって。でもどうせこれきりだしいいか、なんて思ってしまった。

「ソトモリさん」
「はい?」

 ふいに声をかけられた方を見れば、さっきの男の人。えーっと、名前なんだっけ。あちらが覚えてくれているのに申し訳ない。

「タケダです、同じ会社の」
「えっ!?」
「やっぱりわかってなかったか」

 そういう彼の表情は、でもなぜか嬉しそうだった。地味って言って悪かったな、こうして近くで見れば、わりあい整った容姿をしていて。

「中途で入ったので。半年前に」

 その声は、喧騒の中にいた私に心地よく響いた。
 
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