ノーマル短編集

□おじさんと私
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『おじさんとわたし』

 私は14の時から、血の繋がらないおじさんと2人で生活している。『おじさん』と呼んでいるけれど、目の前の男性はまだ30代半ばだ。顔もそれなりにかっこいい。無精ひげと目の下のクマをなんとかすれば、だけど。

「おじさん」
「ん?」
「またタクアンつながってる」

 箸でつまんで持ち上げてみせれば、ものの見事に皮一枚で持ち上がり、花のように広がるタクアンのかたまり。おじさんはいつまで経っても家事が下手だ。それでも毎朝私のためにご飯を作ってくれる。『朝ご飯は1日の活力!』というのがおじさんの数ある口癖の1つで。

「あー、すまん。切りなおす」
「いいよ、箸で切れるから」

 ていうか徹夜続きの人にあんまり包丁を握ってほしくない。それなら私だってもう17なんだし、自分で作ればいいって話だけど。朝起きると温かいご飯が用意されているという状況がどれだけ恵まれている事か、身をもって知っているから。口にはしないけど、おじさんもそういうつもりで頑張ってくれてるんだと思う。
 3年前、両親がそろって他界した。それにより私は天涯孤独の身ってやつになって。途方に暮れていた私の前に現れたのがおじさんだった。おじさんはお父さんの大学の時の後輩で、卒業後も親しくしていたらしく、

『俺に何かあったら、娘の事頼むな』

 なんて頼まれていたらしい。だから迎えに来た、そう言っておじさんは笑った。まるで小説みたいだ。そうだったらよかったのに、と時々思う。
 おじさんと知り合えてない自分なんて想像もつかないけど、でもあのままの生活が続いていても、そのうち知り合っていた気もするから。それなら両親が健在である状態を望むのは当然、とどこか他人事のように思うのが1つ。

「締切大変なの?」
「あー、いや、大丈夫」

 私の問いに、おじさんは曖昧に答えた。これは相当きている時の反応だ、今夜あたりみさ子さんが来襲するに違いない。
 物語みたいな事を実際にやっちゃったおじさんの職業は、そのまんま小説家だったりして。しかもそこそこ売れているらしい。ファッション雑誌を買いに本屋に行ったりすると、何冊か平積みされていたりするから。

『良一先輩がいなかったら、俺はクズのままだった』

 これもおじさんの口癖だ。おじさんが今の仕事をしているのも、お父さんが関係しているんだとか。だから自分のために私の親代わりをしているのだという。それを聞くたびに、私は複雑な気分になる。こうして1つ屋根の下で暮らせるのは嬉しいし、感謝してもしきれない。
 でも私はおじさんの事を、一人の男性として好きだから。彼にとって私はいつまでも『恩人の子供』なんだろうと思うとやるせない。これが最近よく発生するたられば思考の、もう1つの理由。
 
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