大人向け長編

□流れ流され行き着く先は、
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「で、どうすんの?」

 私が泣き止む前にベッドへ連れて行かれて、温もりを求めて私もいつもより積極的になってしまった気がする。終わるころには私の中で何かが変わったような、そうでもないような。そんな簡単に区切りがつくわけもないけれど、とりあえず無意識に抑えこんでいた感情を自覚できた。あとはゆっくりと癒えていくのを待つばかりだ。
 少しずつ冷静になってくると同時に疑問がわく。丹羽さんはどこまで見通して行動していたのだろうか。丹羽さんの出現がなければ、私と美河さんとの不毛な関係がいまもずるずると続いていただろうことは想像に難くない。そしていつかのっぴきならない事態まで追い詰められて、身を持ち崩していた可能性は高い。

「何の話?」
「このままなし崩し的に俺と付き合うか、一回仕切りなおして俺と付き合うか、結局押し切られて俺と付き合うか」
「……それ、選ぶ意味ある?」
「どれもおすすめだけど?」

 だるい筋肉を動かして視線を向ければ、満面の笑みが返ってきた。本人に勧められるなんて光栄なことだ、もちろん皮肉的な意味も含む。正直しばらくはそういうものから離れていたい。現在進行形で男性とベッドをともにしているわけだけれど。

「本気だったの?」
「狙った獲物は逃さない主義だから」
「狙われてたの?」
「そこからかよ」

 同じような問いをくり返せば、丹羽さんが笑みを解除してため息をついた。そこからと言われても、不倫中の女を見つけて興味本位で手を出したとしか思えなかった。だから美河さんとの関係が終われば、丹羽さんとも疎遠になるのだとばかり。
 もしかしてはじめから私をすくいあげようとして、あのとき声をかけてくれたのだろうか。それにしては強引だったような気もするけれど。

「じゃあ付き、合う?」
「何で疑問形なの、俺が聞いてるのに。もしかしてまた流される気?」
「選択肢の中になかった? なし崩し」
「それ却下で」

 自分で言い出したくせに。けれど丹羽さんのこういうところは、どうやらそこまで嫌いではないようで。もしかして私は流されるタイプではなくて、周りを押し流す人がタイプだというだけなのかもしれない。だとしたら丹羽さんは格好の相手なのに、なぜすぐに頷く気が起こらないのだろう。
 目の前の彼をまじまじと眺めてみる。あいかわらず整った容姿だ、そこは彼を遠ざける理由にはなりえない。私の視線を受けて丹羽さんが居心地悪そうに身じろぎをする。恥ずかしがっているのか、はたまた後ろ暗いところがあるのか。

「もし付き合ったとして。釣った魚には餌をやらない主義でしょ?」
「あー、そうだね。でもだからいいのかもしんないね」
「何それ?」

 一応、不満な点を指摘してみたつもりなのに。だからいい、だなんて意味がわからない。ようやく不倫関係から脱却したわけだから、自分で選びとることができるなら報われる恋がしたい。その相手が丹羽さんでいいのだろうか。
 それでも拒絶しない程度には揺さぶられているのが伝わったのだろう、丹羽さんがもうひと押しとばかりに私の耳元で囁く。

「散々抱いてるのに、まだ俺のものになった気がしない。だからいくらでも餌をやる気になる」
「くれてるの?」
「まだ足りない? すごいね」

 意外すぎて思わず疑問形で返してしまったら、丹羽さんが少し驚いてみせてから口角を上げる。そういう意味じゃない、と思うのに、再びのしかかってくる身体を押しのけられない。あぁまた流される、そう思って気づく。
 押し流す人がタイプだというところも難ではあるけれど、私自身が流されるのを心地よく思ってしまうタイプなのだとしたら、さらなる問題だ。少なくとも男女関係においては、また不毛な関係を招き寄せないともかぎらない。私の内心を知ってか知らずか、丹羽さんが誘うような声で尋ねてくる。

「いい加減観念して、俺のものになってくんない?」
「……気が向いたら、ね」

 自分への牽制のために、返事は濁しておいたけれど。やっぱり私は、流されてしまうのだと思う。彼らの元へ。

END
 
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