大人向け長編
□流れ流され行き着く先は、
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目を覚ましたのはホテルのベッドの上だった。そこまで長いあいだは気絶せずに済んだらしい。視線を下ろせば、何もまとわないままの身体に巻きつく美河さんの両腕。ゆっくりと彼の顔があるほうを向いたら、目が合った。
「……謝る気はないけど、後悔はしてる」
「何、それ」
いまさっきの行為に関してだけ言えば、私は完全に被害者だ。でも自己中心的にもほどがある言葉に思わず笑みがこぼれてしまった。その反応に彼も少しだけ口角を上げて、しかしため息のように言葉を吐き出す。
「今日のことだけじゃなく、色々、な」
色々。それにはたぶん私たちの関係のすべてが含まれてしまうから、彼もあえて口には出さなかったのだろう。後悔するくらいならさっさと手離せばよかったのに、なんて他人事のように思う。
それができるなら、不倫なんかしていない。共犯である私には同調しすぎて痛いくらいだ。
「叶うなら、やり直したい」
まるで独白のような呟き。以前の私なら、それすらも受け入れていたかもしれない。もしかしたら、心のどこかでこの言葉をずっと待っていたのかもしれない。
でももう無理だとわかってしまった。丹羽さんの存在はきっかけでしかなくて、この関係が始まったときから終わりは定められていて。それをいま、美河さんに告げられた瞬間に悟ってしまった。どんなに離れがたくても、美河さんとはこれが最後になる。
「言ってみただけだ」
返事をできずにいると、美河さんはそう言って薄く笑った。彼も別れの気配に気づいていたに違いない、たぶん私よりも早く。それでも口にしたのは、彼なりの決着のつけ方なのだろう。
それにしても、そう切り出したときには美河さんの表情にいつもの余裕が戻っていて。むしろ何だか、新しいおもちゃを見つけたような輝きすらまとっていた。
「俺が結婚しても離れなかったくせに、あいつといい関係になったら簡単に俺を捨てるんだな?」
「いい関係、ではないけど」
捨てるなんて単語は心外だけれど、ただの自虐だと思ってスルーして。丹羽さんとのことを訂正した。そんな言葉で表現するには殺伐としすぎている。脅している人間と、脅されている人間が身体を合わせているだけだから。
美河さんとのことがなくなれば、丹羽さんとも関係しなくなるのだろうか。過去になるとはいえ不倫の事実を掴まれている以上、それは丹羽さん次第だけれど。彼にとっての私の価値はやはり美河さんとの関係があってこそだろう。そんなことを考えていたら、美河さんの腕の力が強くなった。
「いまはまだ、俺のことだけ考えてろよ」
自分から言い出したくせにとは思うけれど、抗う気は起こらなくて。何だかんだ言いつつ、私は美河さんのこういうところが好きだったのだろうと思う。最後まで、美河さんは美河さんだった。