ノーマル短編集

□キミとの初めて
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初めてのチョコ

 そして迎えたバレンタイン。決戦である。……もう少し意気込んだほうがいいかな。決戦である!!

 3学期が始まって、いざ大輝くんと腹を割って話そうとしても。タイミングが合わなかったり、周りの目が気になってしまったりで。だからこのイベントは絶好のチャンスだ。事前に甘いものが大丈夫か聞いたし、大輝くんも心づもりをしてくれてるとは思う。
 校内じゃ大輝くんが人目をひいちゃうから、ちょっと寄り道して小さな公園の、ひとけのないベンチに並んで座る。友梨ちゃんは心得たとでもいうように、仲谷くんを連れて先に帰ってくれた。

「じゃあ、えっと……」

 会話が途切れたところでチョコを取り出す。性急すぎる気もしたけど、これが本題だし。

 まず手作りか、既製品かってところから悩んだ。それから大輝くんはもらい慣れてるんだろうなとか、私は初めてだからちゃんとリサーチしないととか次々に思い浮かんで。
 結局着地したのは、市販のシンプルなトリュフチョコ。もらって困らないかどうか重視の、我ながら面白みのないチョイス。でも今回重要なのはそこじゃないから、中身くらいは無難でいいと思って。

「好きです! 付き合ってください!」
「え……俺ら付き合ってるよね?」

 箱を突きだしながら思い切って伝えたら、当然といえば当然のお答えをいただいた。ですよねー。思うところがあるなら、ちゃんと説明しなくちゃとはわかってるんだけど。散々悩んでも、どういう風に切り出せばいいのか思いつかなくて。

「そうだよね、付き合ってるんだよね……」

 初めてのお付き合いなんだから、本当ならもっと浮かれてしかるべきだ。それなのにどうしてこんなにも、心細さしか感じてないんだろう。
 しなしなと勢いをなくす私を見て、大輝くんが思わずという風に苦笑した。けれどすぐに何か覚悟を決めたような表情を浮かべる。

「ごめん」
「え」
「やっぱり、不安にさせてるよな」

 こちらを気遣う言葉に、頷いて楽になろうとする自分を抑えるのに苦労した。この状況は大輝くんだけのせいじゃないし、不安になるのは私のせいだ。提案したのは大輝くんだけど、頷いたのは私だから。あのとき私が頷かなければ、違う未来もありえたのかな。

「大輝くんにとっては、単に思いついたことを言っただけかもしれないけど」
「うん?」
「ヒマワリ畑なんて、初めて言われたから」

 不似合いだと思っていた私の名前を、初めて肯定してくれた人。

「だから、」

 さっきは勢いで言えたのに。大輝くんが耳をかたむけてくれている今、簡単には出てきてくれない。でも、伝えなくちゃ。たとえ結果がほとんど決まってるとしても。

「私は、大輝くんのことが好きです」

 これが今回の最重要課題。ちゃんと私の気持ちを、片想いを知ってもらうこと。
 
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