ノーマル短編集

□キミとの初めて
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初めての恋心

「……難しい」

 煮詰まりすぎて思わず声に出てしまった。何がって、仲谷君の想いを成就させるのが。

 衝撃的な告白を聞いてから数か月、友梨ちゃんは相変わらず、浅島君と仲谷君、ついでに私にも熱い視線を送り続けている。自分がどうこう、なんて考えもしてないんじゃないかな? 仲谷君は仲谷君で、自分からアタックする気はないみたいだし、私が2人を近づかせようとすると睨んでくるし。
 そもそも頼まれてもいないし、恋愛経験ゼロな私がどうこう出来るような問題じゃない。うん、余計なお世話だってわかってる、わかってるつもりなんだけど。

「ナガっちは何の競技に出るんだっけ?」
「ふぁい? ……あ、あぁ、パン食い競争だよー」

 不意を突かれて変な声が出てしまったけれど、質問の主は浅島君なので舌打ちは返ってこなかった。それが余計に申し訳なく思えて、慌ててこれから始まる体育祭の種目を告げる。
 高校生にもなってやりたくない競技ナンバーワン、そんな囁きがあちこちから聞こえてきたので立候補した。行事に燃えるタイプに見られがちだけど、実はあんまり乗り気じゃないからちょうどよかったりして。

「うっそ、いいな。俺も出たかったんだけど、他のに推薦されちゃったんだよね」

 「俺もパンほしい」、そう言ってほがらかに笑う浅島君。そりゃ、バリバリの運動部にオモシロ系競技なんかさせないでしょ。筋肉がもったいない。
 体育委員がメインの行事だけれど、当たり前のように学級委員にも雑用という名の役割がある。友梨ちゃんと仲谷君は別行動中だ。もちろん私から言い出したので、仲谷君には舌打ちされましたよ、ええ。

 6月という季節柄、校庭のそこら中がぬかるんでいる。その1つ1つに砂を運んで盛って平らにならす作業は、単調な上に結構な重労働で。ついつい思考が逃避していく。

「で、何が難しいの?」
「いやぁ仲谷君が、……」
「勇太が?」

 あまりにも自然に聞き出されて、あやうく口を滑らせるところだった。浅島君は変わらない笑顔のままだ。心情としてはこのままぶちまけて相談に乗ってもらいたいところだけど。私が仲谷君のトップシークレットを垂れ流したと知られたら……。

「……仲谷君が、どうやったら友好的になってくれるかなぁ、と」
「あー、それは確かに難しい。でもナガっちには結構友好的に見えるけど?」
「どこが」

 何とか回避できたのはよかったけど、続いた浅島君の言葉には思わず遠慮も忘れて反論せざる得なかった。一般人とイケメンでは友好的の意味が違うのかな、そんなわけないよね。

「だって勇太がまともに話す女の子、ナガっちくらいだろ」
「まともとは……?」

 舌打ちと皮肉が彼のまともであるならば、確かに友好的だって事になるかもしれないけど。それはさすがにないだろう、だって友梨ちゃんにはそんな事しないもん。でも友梨ちゃんに対しても、普通に話してるとは言い難いけど。何か気取ったような話し方で、思わず吹き出さないようにするのが大変だったり。

「いやもう私に対してだけじゃなく。あの棘はどうにかならないものか」
「まぁ俺はそれ含めて好きだけどね、勇太の事」
「えっ……!?」

 まさかの友梨ちゃん大勝利!? そんな事を考えたのが顔に出てしまったのか、浅島君が慌てたように訂正する。

「もちろん友情的な意味でな?」
「だ、だよね……!」

 ごめんね、一瞬そっちかと……! もちろん本当にそうなら全力で応援するけど! ちなみに今全力で応援している人には迷惑がられているけど!
 でもそうか、何となく別格的に見てしまっていたけれど、当然彼にも恋愛感情はあるわけで。浅島君が好きになる人かぁ、やっぱり美人で、性格がよくって……そう、友梨ちゃんみたいな。

 え、もしかして私が鈍感なだけで、すでに学級委員内で修羅場が形成されている……!? 動揺を隠せない私に浅島君が苦笑して、

「むしろ俺には、ナガっちが勇太の事を好きなように思えるけど」

 今度こそ頭の中が真っ白になった。
 
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