ノーマル短編集

□殿ごのみ。物ごのみ。
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 最近、先輩が何だか嬉しそうだ。それが何によって引き起こされているかなんて、自称先輩のストーカー、な私には分かりきってる。

 あぁ、愛しの先輩。ちょっと頭かたいのとかも、大好き。別に付き合いたいとか、そっち系の意味じゃないんだけど。私、普通に彼氏いるし。
 でも先輩と彼氏の呼び出しがかぶったら、先輩を選ぶ。ちゃんと彼氏に事情を説明して納得させてからね。

「では、各自作業を始めて下さい」
「はーい」

 涼やかな声で散会をうながす、最近現れた臨時のイケメン先生。何の因果かウチの部の顧問になって。今まで男に見向きもしなかった先輩が、心をときめかせている、と。

 う・ら・や・ま・し・い!

 私なんて、ただの後輩でしかないというのに! もちろん、『先輩と1番親しい後輩』の座は手に入れたけど、これ以上の進展なんて、飛び級制度が日本で採用されない限り起こりえない。どこまで追いかけようと、1歳の差が壁となる。先輩のいない高校生活なんて、考えただけで憂鬱だ。

 胸の内でため息をつきつつ、立ちあがる。イスに座って私たちの作業風景を眺めている先生と目が合って、顔面に笑みを張りつかせながら近づいた。

「先生、ちょっといいですかー?」
「はい、どうしたの?」
「ここなんですけど、どうも上手くいかなくて」
「うん、ちょっと見せて」

 受け渡しの時に、ちょっと手と手を触れさせて、照れ笑いを浮かべてみたりして。周りから見れば、先生に対してアピールしまくりのチャラい女なんだろうけど。あいにく、そのくらいの接触で胸をときめかせるほど純情じゃない。
 先生が確認するのを待って、ななめ後ろで待機する。距離はぎりぎり不自然にならない程度にまで近づいて、一緒に確認するそぶりで顔を近づけた。

 先生に好意を持っていないのに、わざとすり寄るのは、もちろん、そうすればより多く先輩の視界に入る事が出来るからだ。他の女子へのけん制という意味もあるけれど。先輩が悲しむ顔は見たくない。
 そして、何気ないフリをして、その日知りえた先生の情報を先輩に流す。先輩は表情こそ変えないけれど、いつもより5パーセントくらい食いつきがいい。

 あ、もちろん先輩は、私にラブラブの彼氏がいる事を知っている。だから私が先生に近づくのを、無邪気に懐いているだけと思っているはずだ。実際は邪気だらけなんですよ、先輩に関しては。

 先輩の恋のキューピッド、なんて気取るのはどうかと思うけど。先生との恋愛とか、大変だと思うし。臨時の先生なんてなおさら。
 だいたい、この先生が悪いのよ。こんな善人そうな顔をして、何人もの女生徒の心をかすめ取っているんだから。先輩、こんな人のどこがいいの? 顔か? やっぱり顔なのか?
 
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