青の祓魔師d

□催涙雨
1ページ/1ページ

さよならを交わして、もう随分と月日が流れたように思う。

実際にどのくらいかと聞かれればなんてことない、たったの数か月だ。
それでも、私にとってはあまりに長い数か月だった。


隣にいつもの人がいない。
たったそれだけのことなのに。
隣にぽっかりとできた一人分の空間は、誰にも埋められない大きすぎる存在だったことを、改めて私に思い知らせた。




隣の存在を、追い求めてばかりだった。

それは、私だけではなかったようだった。



数日間降り続いた雨は今日も止むことはなさそうだ。

毎年、7月7日には雨が降る。
織姫と彦星はまた、会えないのだろう。

せっかくのテルテル坊主もあまり意味はなかったのだろうか。



「…名前!」

『竜士…』

待ってばかりの意気地なしの私がずっと、待ち望んでいたその声が
私の名前を呼ぶ。






『なんで…?ここに』

今の時間、竜士はいつも塾に行っていたのに。教室のドアの前に立っている。


「…その、そろそろ、言わなあかんことあって」

彼の言わんとすることが、私の期待通りならどれ程嬉しいだろう。
こんな時にまで、調子のいいことを考えてしまう自分が本当に、馬鹿らしい。



「率直に言わしてもろたら、その…」


沈黙が痛い。

外で降る雨の音だけが静かに教室内で響く。







「もう一回、俺と、付き合ってください!」

そうなることを、望んでいたのに。
頭では無理だと決めつけていたから。
まさか、こんなことになるなんて。



「あかん、よな…?」


『…っ私は! 竜士のことが、ずっと好きだったの。今もそれは、変わってない…!

よ、よろしく、お願いします。』


涙が流れて、うまく言葉を紡げなくても
竜士にはしっかり伝わっていたようだった。





「…っしゃあ!!」


「別れてからも、ずっと忘れられんかった、ずっと好きやった、ずっと後悔してたんや…ごめんな。
もう、二度と、離したりせんから…」




私の存在を確かめるように抱きしめる竜士の手は少しだけ、震えていた。


一緒に居れなかった時間を、互い隣の存在を確かめ、埋め合うように、交わしたキスは
どんな言葉よりも、心を満たして、幸せにしてくれる。




外の雨はいつの間にか、止んでいた。

竜士と私の間に降り続いた雨も止んで、暖かな太陽が雲の切れ間から暖かい日の光を溢す。

『テルテル坊主が働いてくれたお陰だね。』



「今年は雨降らんかったらいいのにな」
『それじゃあ、星を見に行かないとね』
「催涙雨はもう十分やな」


繋ぐ手の暖かさに、ひどく安心した。
こんな幸せの毎日をずっと、守っていこう。
 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ