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□ふゅーちゃー
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家庭の事情というやつで、この北海道に越してきて7年。
何の夢を持つでもなく、共働きで会社勤めの両親を見て育ってきた。
アキや、一応彼氏の一郎が進学するから、という理由で、一緒にこの大蝦夷農業高校に進学した。
入学早々、クラスメートたちへの自己紹介では、皆が皆将来のことを話していた。
一人、八軒という男の子はその事には触れていなかったけど。
夢なんて考えたこともなかった私は、八軒くん同様に、適当な挨拶をして、そそくさと席に座った。
その日の夜、夕飯を食べてから一郎を捕まえて、食後の運動と言って散歩に出てきた。

『皆、将来の夢とか考えてるんだね』

「人麻呂は何もないのか?」

『うん、これからも考える予定ないよ』

「ちったぁ考えろよ…」

呆れた顔で見下ろされ、ハハハと笑って返せば、ため息が返ってきた。

『いいの、この2年で進学か就職か決めるから』

「お前ぇが言うと恐ろしく簡単そうに聞こえるわ」

『2択でも奥は深そうだよねえ。10円玉じゃ決めれないよ』

ほんの冗談のつもりだったんだけど、アホかと頭を軽く叩かれた。

『あの初対面の場で夢とか語るんだもん、正直いろんな意味で焦った。
あっという間に置いてきぼりになりそう』

「気にすんな」

一郎の、思わぬ一言に目を見開いた
『…え?』
何言ってんだ、とか、頑張れよ、とか言われると思ってたから。

「そりゃあ、置いてきぼりとか嫌だけどよ、人麻呂は勉強できるだろ」

だから、進学も就職もできるだろってことらしい。無責任なことだ。
高校に入ってすぐ、卒業後のことを考えないといけないなんて、思ってもみなかった。


『勉強できるし、体力も人並みには自信あるから、一郎のとこに永久就職がいいなあ』

「え!お、おまっ!!プ、ププロポーズか!?」

『はあ?………!!ち、ちが!』

何気なく言ったことなにのに、一郎が変に解釈したせいで、そんな気まったくなかったのに、顔がいっきに暑くなった。

「お、俺はいつでも歓迎してやる」

フイと顔を背けながら言う一郎を見上げれば、耳が赤くなっているのが、月明かりでしっかりと見えた。

『本当に?』

「俺が嘘吐いたことあるか!?」

『ない、です…』

そうだろ、と赤い顔はそのままに満面の笑みで頭を豪快に撫でられた。

『就職先だけじゃなくて、嫁ぎ先も決まったからアキに自慢しないと』


小学生のとき、誰かに
夢がないならこれから何にでもなれるよ
と言われた事がある。
無理に夢を見ないで今まで生きてきて、正解だったのかもしれない。
これからは、何があっても一郎を支えて行こう。





…………
五里霧中というより、ただの駄作

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