原作沿鼬長編伍

□巻ノ129
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水の中に潜った時特有の
くぐもった音だけが耳に入ってくる。



























寒い。
寒い。
寒い。











「…ー……」



































































寒いよ。






































「……、」




































寒ささえも身体から
奪われていく。







































「      」



































不思議と温かく感じてきた。




































「寧々」


































寧々?
誰なの?
誰が誰を呼んでいるの?












































「寧々」



































声がだんだんと近づいてくる。
それに比例して温かい何かが
身体を包み込む。

































「寧々」

































温かさが増すほど、
声が近づくほど、
遠退いていた意識が、
忘れかけていた自分が、
身体の底から沸々と
湧き上がってくる感じがした。


































「寧々」





























寧々…そうだ、
それは私の名だ。




































「寧々」





































私の名を呼ぶ
この声は、








































『イタチ…?』






























私はイタチの姿を
一目見たい、と
もう一度重い瞼を上げて
そこにいるであろう人物を見た。










































「寧々、俺と一緒に来い」

『!』









































そう彼が囁いた途端、
私は水の中から
顔を出していた。




































『…イタチ、』

「…寧々、」

『…本当に、イタチなの?』

「あぁ」





































彼の手が私の手首を
がっちりと掴んでいた。
水の底に居たはずの私は
いつの間にかイタチと共に
先ほど底から見上げたであろう
優しい光が照らす水面に
立っていたのだ。
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