Imitation

□それは、私が純粋だった頃
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翌日。
ティアが目覚めるととうに日は昇っており、時計を見ると10時の所に短針がきていた。


(思ってたより疲れてたのかな?……お腹すいた。)


若干遅い朝食を取るために、ティアは食堂へ向かう。自室の扉を開けると、廊下の窓から差し込む陽が眩しい。


戦闘専門中立機関Bloody Crossの本部は“コア”と呼ばれる漆黒の巨塔にある。Imitationのほぼ中心に位置し、回りは山々に囲まれている。
コアはその山々にも劣らぬ高さを誇る。


もちろんコアの中に修練場、医務室、食堂、団員の部屋など、Bloody Crossに所属する者の生活が不自由しないための設備がしっかり備わっている。


部屋は位の高い者ほど上層に与えられる。つまり、現在最上階に部屋を持つのはカインである。
指揮官に次ぐ高位、魔導団統帥のティアも上層に部屋を持つため、中層にある食堂へ行くには階段を降りなければならない。



「いつになったらエレベーターが出来るのかな……」


エレベーターは現在建設中である。ぼやきながらも階段を降りること5分。ようやく食堂にたどり着く。
時間が時間なだけに、人も疎らである。


カウンターに行けば、顔馴染みのシェフがいた。


「フレンチトーストとサラダとコーンポタージュ下さい。」


「おやおや、今日は遅いんだねティアちゃん。昨日帰って来たって聞いたけど。」


シェフは50代の男性で、ティアが入団した当初から良くしてくれた人だ。


「うん。いつもとは違う任務で、ね。」


「そっか。おかえり、ティアちゃん。」



そう言ってシェフはにっこり笑った。ティアはシェフが食材をお皿に乗っけるのを見ながら、くすぐったい感情に戸惑った。そして小さな声でただいま、と言う。

シェフはそれに気付いたけど、口に出す必要はないと思った。


このカウンター自体に魔法陣が刻まれているので、紋章魔法の発動は簡単。ただ一言、魔法の名を紡ぐだけ。



「食材調理(ミール)」



魔法陣は淡く輝き、皿の上の食材はあっという間に暖かな食事に変わった。



「あいよ。じゃ、しっかり食べてしっかり休むんだよ!」


「うん、ありがとシェフ。」



朝食の乗ったトレーを持って、窓際の席に座る。コーンポタージュを飲むと、その暖かさが全身に行き渡るようだった。

シェフの魔法で作り出される料理はどれも美味しい。けれど、一度で良いから彼の手作り料理が食べたいと思うのはわがままだろうか。





――ガキィィンッ!キンッ!




そんなことを思っていると、外から剣がぶつかりあう音が聞こえてきた。窓の外を見ると、下層の修練場に人がいる。


(あ、懐かしいな。養成所の卒業試験だ。)





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