Imitation
□それは、私が純粋だった頃
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「魔王の軍隊のせいで、かなりの数の村や町が『消えて』います。」
「消える……?」
破壊されるのではなくて、消える?一体どういう……。
「この写真を見て下さい。アゲハからの報告書にあったものです。
元は、雪の国ノースチェルにある辺境の村でした。」
差し出された写真を受け取ると、次の瞬間驚愕する。
「なっ……!」
写真には、白い雪原の中に大きく穴が空いた光景が写されていた。
穴、と言っても、雪の下の土さえも抉りとられたように何もない。穴が何処まで深く掘られているのか。
これでは、まるで。
「まるで、空間ごと切り取られたみたいでしょう。」
「だから、『消えた』か。」
ティアは眉を顰める。もしも自分達がフォレストプリズンに行かなければ――と思うとゾッとした。
「報告によれば、Imitationで最低でも4つの村が消されました。」
「そんなにっ!?」
「黒幕は誰か、目的は何か、分からない事だらけですからね。ウィルを中心に動いてもらっていますから大丈夫ですよ。」
(……ウィル、か。)
どうしても好きになれないんだよね、あの男。
ウィルとは、騎士団の統帥を務める人物である。
あらゆる武術に精通し、中でも槍術において右に出る者はいない。
誠実で責任感も強く、団員も大切にするため信頼も厚い。
が、いかんせん愛想が無いのだ。無口の上に、言葉に感情が感じられない。
――何より、そんなウィルに過去の自分を重ねてしまって嫌だった。
「ティア、詳しい話しはまた明日にしましょう。
……あまり顔色が良くないね。もう休むんだ。」
ティアは心配するカインの瞳を見て、素直に頷く。
「うん、そうする。じゃあ、また明日。」
自室に戻ったティアは、すぐに眠りに堕ちてしまった。