闇夜のセレナーデ
□月光夜想曲
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「こら起きろーっ!」
朝7時の恒例行事。高校生にして立派な主婦を務める私、日下部莉都の大声。
が、しかし。
「うっせ……」
毎朝起こさなくちゃ、太陽がてっぺんに昇るまで惰眠を貪るであろう弟は、うざったそうに寝返りをうつ。
いくら休日とはいえ、放っておく訳にもいかない。仕方なしにもう一度声をかけるものの、今度は完全無視ときた。
あーっ、莉緒の馬鹿!低血圧!
毎日手を焼かせてくれるわね、弟よ。
こんな時は奥の手を使うか……
莉都の耳元で、とある事を囁く。
「今日の夜ご飯は人参フルコースにするわよ。」
「いや、起きます。」
人参大嫌いな莉緒には、これが一番(前に本当にやったのが堪えてるらしい)。
「朝ご飯出来てるから、早く着替えて来てね。」
「あいよ……」
お母さんもお父さんも帰ってこないこの家。
家事能力皆無の莉緒に任せることも出来ず、私が全ての家事を担っている。
大変かと聞かれたら大変だけど、やらなければならない。幸い、生活費は毎月振り込まれているからお金には困っていない。
莉都が着替えて来たので、2人で朝食を食べる。朝食はやっぱり和食だよね。
「なあ莉都、グラタン食べたい。」
「えー、マカロニ買わなきゃじゃんか。」
「良いだろ?マカロニぐらい買ってくるからさ。」
「てかちゃんと『お姉ちゃん』って呼びなさいよ」
「やだね。」
昔はもっと素直に「お姉ちゃん」って呼んで、懐いてくれたのにな。反抗期かな。
お味噌汁を啜りながら、少し嘆いてみる。